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「エヴァンズ公爵! シャーロットは我がバートン侯爵家で大切に預かりますから、任せてくださって結構ですよ!」
「渡すわけないだろ! シャーリーはうちの子だ! 子供は引っ込んでなさい!」
ヴィンセントは子供相手にムキになって言う。
「シャーロット! いくらでも贅沢させてあげるからうちに来てくれ!」
「だめだ! 引っ込んでいろと言っただろ! シャーリー、惑わされてはいけないよ。うちにいれば、こんな子供には到底用意できないような素晴らしい暮らしをずっとさせてあげるから」
二人は両側から必死な顔で言う。ジェレミーはともかく、なんでヴィンセントまで同レベルで争っているんだ。
私は呆れながらも、ヴィンセントの手を取った。
「私、ヴィンセント様とずっと一緒に暮らしたいです!」
「シャーリー!」
「シャ、シャーロット。俺じゃだめなのか……?」
ヴィンセントは感極まった様子で私を抱き上げ、ジェレミーは泣き出しそうな顔で私を見る。
いや、私的には役に立つならどっちの家でもいいのだけれど。
でも、まだ子供のジェレミーの口利きでバートン家に行くより、現当主であるヴィンセントの家でぬくぬく守られて暮らす方が明らかにメリットが大きいじゃないか。
あえてエヴァンズ家を出て行く理由がない。
「シャーリーはずーっと私と一緒にいるんだもんな」
「はい! シャーリーはヴィンセント様とずっと一緒です!」
私がそう言うと、ヴィンセントはご機嫌で私を高く抱き上げる。すると、下のほうから悔しげな声が聞こえてきた。
「……俺は諦めないからな、シャーロット。いつか俺はお前に弟子として認めてもらえるような男になる! それまで待っていろ!」
「いや、だから私よりほかの人を探したほうが良いって」
「いいや、俺は決めたんだ! そのときはうちで一緒に暮らそう!」
「さっきも言ったけど私はヴィンセント様の家に……」
私が言い終わる前に、ジェレミーは片手をあげて、「またな!」と言って去って行く。
一体なんなんだ。おかしな子供だな。
「おかしな子だったね、シャーリー。シャーリーはあんな子の言葉は気にせず、ずっとエヴァンズ家で暮らそうね」
「はいっ。ヴィンセント様!」
私はかわい子ぶってヴィンセントの首に抱き着く。ヴィンセントの嬉しげに笑う声が聞こえた。
それから私たちはようやく門を出て、神殿を後にした。




