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「シャーリー、気づけなくて悪かった。マイラ殿にそんなひどい教育を受けていたなんて……!」
ヴィンセントは私をぎゅうぎゅう抱きしめながら、さっきまでとは打って変わって優しい声で言う。
「シャーリーは平気です! 結果的に優勝できましたもの!」
「ああ、シャーリーはすごい子だ。今度ご褒美をたくさん買ってあげるからね」
元気に返事をすると、ヴィンセントは頬を緩めて私の頭を撫でた。
その後、私は舞台上で優勝賞品のメダルと花束をもらい、会場を後にした。
ヴィンセントと手をつないで神殿の廊下を歩いていたら、参加者やその保護者に何度も興奮気味に声をかけられた。
どうしてそんなに強い魔法を使えるのだとか、使える属性は一体いくつあるんだとか、みんな色々聞いてくる。
尊敬の目で見てくるのはいいのだけれど、なかなか廊下を進むことができず少々疲れてしまった。
「……ふぅ、いっぱい人に囲まれて疲れました……」
「ははっ。疲れたよな、シャーリー。お屋敷に戻ったらすぐに寝てしまおうね」
ようやく人混みを抜け、ぐったりする私にヴィンセントは甘やかすような声で言う。
「シャーロット!!」
その時、また後ろから名前を呼ばれた。
やっと人混みを抜けたのに……とうんざりしながら振り返ると、そこにはあの金髪の子供がいた。
「あなたは、えーと……」
「ジェレミー・バートンだ。俺は君の強い力と、何度も悪口を言った俺を助けてくれたその慈悲深さに感動した!」
金髪……ジェレミーは駆け足で近づいてくると、私の手を両手でぎゅっと握りしめて言う。
「はぁ、それはどうも」
「シャーロット、君は本当に素晴らしい。どうか俺を弟子にしてくれないだろうか」
「え?」
突然の言葉にぽかんとしてジェレミーを見返すと、彼は至極真剣な顔をしている。
「頼む! シャーロット、俺も君みたいにすごい魔法使いになりたいんだ!」
「えー……、私よりもっといい師匠はいると思うよ?」
弟子なんてめんどうなもの欲しくない。しかし、やんわり断ってもジェレミーは諦めずに食い下がってくる。
「いいや、君よりすばらしい魔法の師匠などいない! そうだ、さっき君は人々に囲まれたとき、記憶がなくてエヴァンズ家で預かられているって言ってたよな? それならエヴァンズ家じゃなくてもいいだろ。うちに来て俺の先生をしてくれないか。うちでだってエヴァンズ家と変わらないくらい贅沢をさせてやれるぞ!」
「ちょ、ちょっと君! 何を言い出すんだ!!」
ジェレミーの言葉に、ヴィンセントが慌て顔で割って入ってきた。




