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ヴィンセントの肩越しに関係者席のほうに目を向ける。そこには口の端をぴくぴくさせて、いらだちを押し隠すようにこちらを見るマイラがいた。
私はヴィンセントの腕から飛び降りて、マイラのほうに駆けて行く。
「マイラお姉さん!」
「……ああ、シャーリーちゃん。よかったわね、優勝できて」
マイラは引きつった笑みを浮かべながら言う。
「うん! すごく嬉しいわ」
「それはよかったこと。突然魔法を使えるようになるから驚いちゃったわ」
「マイラお姉さんのおかげよ! マイラお姉さんはいつも私に魔法を教えるとき、できるだけ無になるように言っていたでしょ? それだとどうしてもうまく魔法を使えなかったから、あえて逆にしてみたの! 思いきり力を込めてみようって!」
「なっ……」
私は周囲に聞かせるように大きな声で言う。
途端にマイラの顔が青ざめた。
「シャ、シャーリーちゃん。何を言っているのかしら。私はそんなこと教えていないでしょう?」
「え? 確かに教えてくれたじゃない。マイラお姉さんは私の属性を調べるときからずっと私についていてくれたでしょう? あのとき、私は体の中を気が巡るような感覚があっても、手元が光っても、それだけでは属性があるということにはならないと教えてもらってすごく助かったのよ」
私の言葉にマイラの顔がどんどん引きつっていく。彼女が言い訳をしようと口を開く前に、私はだめ押しした。
「それとね! 杖! マイラお姉さん、わざと私に魔法が使いにくい杖を貸してくれたのよね! あのなかなか魔法が発動できない杖で練習しているうちに、強い力を使えるようになったみたい! 普通の杖を使ったら、すごい威力を出せたわ!」
「私はそんな杖を渡してないわ! というか、今あなたが持ってる杖だって普段と同じ杖のはずでしょ!? なんで普通に魔法が使えてるのよ!」
マイラは焦った顔で言う。普通じゃない杖を渡したことを自白してしまったことに気づいてすらいないようだ。
「これはヴィンセント様に買ってもらった私の杖よ。この前こっそり入れ替えておいたの」
「な……!? 入れ替えたですって!? あんた、わかってて私を騙したわね! ふざけるんじゃないわよ、このクソガキ!!」
マイラは顔を歪めて私に掴みかかろうとする。
マイラの手が顔の前まで着た瞬間、突然後ろから抱き上げられた。
「……マイラ殿。今の話はどういうことか説明してもらおうか」
抱き上げられたままの体勢で振り返ると、今まで見たこともないような冷たい目をしたヴィンセントの顔があった。
「ヴィ、ヴィンセント様……。私はただ、シャーリーちゃんに魔法を覚えてもらおうと……」
「君はシャーリーに属性がなかったと言ったよな? 本人が反応があったと言っているのに、属性はないと判断したのか? だいたい、シャーリーに教えたと言うその魔法の使い方はなんだ。そんなやり方をしたら、どんなに高い魔力を持っていても魔法なんか使えるはずがないじゃないか」
「そ、それはシャーリーちゃんのついた嘘ですわ! 私はそんなことを言っていません! 属性テストのときだって、行ったときは反応があったなんて教えてくれなかったんです!」
マイラは必死の様子で弁解している。
ヴィンセントの目がどんどん冷えていくのがわかった。
「シャーリーのせいだと言うのか。まぁいい。シャーリーが入れ替えたという杖を調べれば、君が嘘を吐いているのかどうかはっきりするだろう」
「わ、私は……!」
「二度とシャーリーに近づくな。次にシャーリーに何かしようとしたら、ただじゃおかないからな」
ヴィンセントは氷のように冷たい目でそう言うと、まだ後ろで何か喚いているマイラに背を向けた。




