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ちなみにマイラが偽っているのは魔法の使い方だけではない。杖自体にも、うまく魔法が発動できないように細工がされている。
以前、マイラが魔導書に気を取られているとき、こっそり普通に魔法を使ってみたことがある。しかし、普段と違いきちんと水の玉が出るよう念じたにも関わらず、杖先からは小さな雫がこぼれるだけだった。
明らかにおかしかった。
ヴィンセントに街で買ってもらった杖を使ったときは、難なく水も炎も出せたのだ。
どうりで授業が終わると必ず警戒した顔で杖を持ち帰ると思った。一度、試しに「夜も練習したいから杖を貸してくれないかしら?」と頼んでみたら、真顔で「シャーリーちゃんは一人で練習するにはまだ早いわ」と断られた。
そろそろヴィンセントに全部ぶちまけてみようかと考えていると、マイラはふいに満面の笑みになる。
「ねぇ、シャーリーちゃん。街の神殿で子供たちの魔法大会を行っているのを知ってる?」
「そんなのがあるの?」
「ええ、そうよ。五歳以上十歳以下の子供なら誰でも参加できるの。そこで神官様から出されたお題に挑戦していくのよ」
「へぇー! おもしろそう! 出てみたいわ」
「それなら、私が神官様に伝えておいてあげるわ。今度の大会にシャーリーちゃんも参加したいって」
マイラは弾んだ声で言う。
彼女のうきうきした様子を眺めながら、私は若干ひいていた。
神殿で行われる魔法大会は、対象年齢こそ低いけれど、子供がお遊びで出るようなものじゃない。
普通の子供よりも数段魔力が高かったり、複数の属性を持っていたりするいわばエリートが実力を試す大会なのだ。
そんなところにマイラの設定上「属性もなく魔力も少ない」シャーリーが出るなんて、場違いもいいところだ。
「楽しみだわ! うまくできるかしら?」
「ええ、大丈夫よ。周りは同い年の子供ばかりだから、気負うことはないわ。気楽に参加すればいいのよ」
マイラは自信満々に言う。
私はドン引きする本心は隠して、笑顔を見せた。
***
マイラが帰った後、夕食時にヴィンセントに魔法の大会に出たいと告げると、彼は明るい声で言った。
「魔法大会! そんなものがあるのか。いいじゃないか、応援するよ」
ヴィンセントはその日は仕事はお休みにして応援に行かないと、と張り切っている。ヴィンセントは魔法大会の実態がエリートの子供が集まる頂上大会なんて知らないみたいだ。
「参加していいんですか? 嬉しいです!」
「ああ、何事も挑戦だ。結果は気にせず頑張っておいで」
ヴィンセントはそう言って私の頭を撫でた。
私はそっと彼のほうに向きなおる。
「ヴィンセント様、一つお願いをしてもいいですか?」
「なんだ? シャーリーの頼みなら何でも聞こう!」
ヴィンセント様は張り切った声で言う。私は笑顔で頼んだ。
「今度マイラお姉さんが来るとき、三人でお茶会をしたいんです! 私のお部屋で紅茶を飲んで、一緒にお菓子を食べたらきっと楽しいです!」
「うーん、お茶会かぁ……。今度私とシャーリーの二人でするんじゃだめかな?」
嬉しげだったヴィンセントの顔が複雑そうな顔になる。
ヴィンセントはどうも、マイラのことが苦手らしい。
マイラがお屋敷に来るとにこやかに挨拶はするものの、あまりその場に留まろうとせず、すぐさま執務室に消えてしまう。
けれど、警戒心たっぷりのマイラを油断させるには、ヴィンセントに来てもらう必要があるのだ。
「ヴィンセント様、シャーリーのお願いを聞いてくれないんですか? 何でも聞くって言ったのに……」
「い、いや! シャーリーの頼みならもちろん聞こう。そうだね、三人でお茶会するのもたまにはいいかもしれない」
悲しげな声で言ったら、ヴィンセントは途端に慌て顔になって了承してくれた。
私はヴィンセントの顔を見て、無邪気に笑って見せる。
ああ、すっごく楽しみ。早く魔法大会当日にならないかしら。




