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「それとね、シャーリーちゃん。今日習った授業の内容は、決してヴィンセント様に教えてはだめよ」
「えっ、話してはだめなの?」
「だめよ。はっきり言ってシャーリーちゃんの魔法の出来栄えはあまりにもひどいの……。私が王都の神殿で教えていた子の中にも、ここまでひどい子はいなかったわ」
「え……っ、シャーリーはそんなにだめなのね……」
「ええ、残念ながらそうなの。だから、今日の修行の内容をヴィンセント様に正直に伝えてしまったら、心が広いヴィンセント様でもさすがに呆れてしまうと思うわ。そうしたらシャーリーちゃんは捨てられてしまうかも」
「そんな……。シャーリーはヴィンセント様に捨てられちゃうの?」
悲しげな声を出したら、マイラは励ますように言う。
「本当のことを話さなければ大丈夫よ。シャーリーちゃん、記憶喪失で帰る場所がないのよね? それなら公爵に見捨てられたら、行くところがなくなってしまうわよね。
そうならないように、授業のことは詳しく話さないようにしておきましょう?」
マイラは優しげな声で言う。
脅し方がなかなかのクズだ。
「わかった。ヴィンセント様には絶対に言わないわ」
「それでいいのよ。次回からは少しでも魔法が使えるように頑張りましょうね」
私が殊勝な顔で言うと、マイラはにっこり笑って言った。
授業が終わり、マイラが帰ると、ヴィンセントは待ちかねていたように私を抱き上げた。
「ああ、シャーリー! 寂しかったよ。お勉強は頑張ったかい?」
「はい! がんばりました!」
「えらいぞ、シャーリー。ご褒美に週末はおもちゃをたくさん買ってあげるからね」
ヴィンセントは私を抱き上げたまま機嫌よく言う。
「嬉しいです! でも、私おもちゃより杖が欲しいな」
「杖? 魔法に使う杖か? えらいな、シャーリーは。そんなに練習をがんばっているのか」
「はい! 練習はとっても楽しいです!」
そう言うと、ヴィンセントはにこにこ笑って頭を撫でてきた。
杖が欲しいのは本当だ。
マイラは授業が終わると杖を持ち帰ってしまうので、自分用のものが欲しかった。
マイラの授業ではまともに魔法を覚えるなんてできっこないし、自分でこの幼女の体でも問題なく魔法が使えるように練習しておきたい。
「授業が楽しいのはいいことだ。どんなことを習ったんだ?」
「うーん、秘密です」
「え? 教えてくれないのか?」
私が首を振ると、ヴィンセントは残念そうな顔をする。
その後もヴィンセントはどんなことを習ったのかしつこく尋ねてきたけれど、マイラに言われた通り詳しいことは何も話さないでおいた。
いつばらすのが一番マイラにダメージが大きいかしらと思うと、口の端からくすくす笑いが漏れた。
***
それからもマイラは定期的にやって来て、私に嘘の知識を教え続けた。
マイラに言われた通りに魔法を使ううちに、私は杖の先からわずかに煙が出るだけのしょぼい魔法を使えるようになった。
「まぁ、ようやくできるようになったのね! 人形には全く届いていないとはいえ、すごいわ!」
マイラは私の杖から煙が出るのを見て、手を叩いて褒める。
これは、彼女に「シャーリーちゃんは無になっても魔法を発動できないようだから、少しだけ煙が出るところをイメージしてみましょう」と言われ、その通りにやったのだ。
「すごい、私にも魔法が使えたわ!」
「魔法が使えたというほどではないけれど、シャーリーちゃんにしては快挙ね!」
私の言葉に、マイラはやっぱり嫌味ったらしい言葉を返す。




