2-3
この間もそうだったけれど、マイラの授業は相変わらずひどい。
彼女が教科書を読みながら私に質問し、私がそれに答えると、正しい答えであっても全て否定される。そして彼女は「シャーリーちゃんには難しいわよね」と憐れみの表情を浮かべながら、間違った知識を教えてくるのだ。
彼女の意図を知っている私でさえ、結構なストレスが溜まる。
王都の神殿で身寄りのない子供に授業をしていたときもこんな調子だったのだろうか。
「シャーリーちゃん、わかったかしら?」
「うん! ちゃんと覚えたわ!」
私は無邪気な顔で返事をする。
マイラは満足げに笑うと、先ほど渡してきた杖を指さした。
「じゃあ、今度は実践してみましょうか。さぁ、杖を持って」
「わぁ! いよいよ魔法を使うのね!」
「シャーリーちゃんにできるかはわからないけど、試してみましょう」
マイラはそう言いながら、テーブルの上に木でできた簡単な造りの人形を並べる。
「シャーリーちゃん、これは子供が魔法の練習をするのによく使う人形なの。これを手を使わずに魔法だけで壊すことができたら成功よ」
「わかった! 杖を構えて人形が壊れるよう念じるのね。絵本で読んだことがあるわ」
「惜しいわね。ちょっと違うわ」
「え?」
マイラは私の言葉に神妙な顔をする。
杖にそれ以外の使い方なんてあるのだろうか。いや、もちろんないのだけれど、マイラが何を言い出すのか気になった。
「絵本に書いてあるのはあくまで作りごとなの。実際に杖を使う時はね、杖を構えてただ無になるのよ。目の前の人形を動かそうとか、意図して杖の先から炎や水を出そうなんて絶対に考えてはいけないわ。ひたすら無になることで、魔法を発動できるの」
「え、えぇー……? 本当に?」
さすがに子供を騙すにしても無理がある説明なんじゃないかと思い、つい演技も忘れて不審そうな顔でマイラを見てしまう。
マイラは私の戸惑い顔など意にも介さず、「そういうものなのよ」で押し切ろうとする。
「……わかったわ! 無になればいいのね! やってみるわ」
私はなんとか笑顔を作って、言われた通り人形に向かって杖を構えてみた。
当然、人形は動かない。
「……あぁ、やっぱりシャーリーちゃんには難しかったのね……。仕方ないわ。属性がないんですもの」
マイラは気の毒そうな目で私を見る。
「私、やっぱり魔法を使えないの……?」
「大丈夫よ。才能がなくたって、たくさん練習すれば少しくらいはできるようになるわ。頑張りましょう」
「うん、私、頑張るわ」
その後もマイラの意味のない指導は続いた。
マイラは私にひたすら頭を空っぽにして杖を構えるように教え、私はその通りにする。当然のように人形は一ミリも動かなかった。
「……正直驚いているわ……。属性がないと言っても、ここまでできないとは思わなかった」
「ごめんなさい……。せっかくマイラお姉さんが教えてくれたのに、私って才能がないのね……」
「いいのよ、シャーリーちゃん。続きは次回頑張りましょう」
マイラは私の手を取って、憐れみに満ちた声で言う。私はその顔を冷めた気持ちで眺めた。




