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「ヴィンセント様、マイラお姉さんの教え方とっても上手でした! 私、マイラお姉さんに教わりたいです」
「う、うーん。そうか? シャーリーがそう言うなら……」
難しい顔をしていたヴィンセントは、私が頼むと途端に思案顔になる。それからちょっと複雑そうな顔で了承してくれた。
「わかった。マイラ殿、シャーリーに魔法を教えてあげてくれ」
「ええ、ヴィンセント様! 私がシャーリーちゃんを立派に教育してみせますわ!」
マイラは弾んだ声で言う。
そういうわけで、マイラは私の世話係から家庭教師に昇格した。
***
マイラが帰った後、ヴィンセントは普段よりも私にべったりで、食事中もお風呂もずっと私を膝の上に乗せていた。
現在も私は「今日は一緒に寝ようね」と言われ、ヴィンセントの大きすぎるベッドの上で彼の膝の上に抱えられている。
正直うっとうしいと思ってしまったのは内緒だ。
「なぁ、シャーリー。そんなにマイラ殿が気に入ったのか? 魔法を教えて欲しいなら、私がいつでも教えてあげるのに……」
ヴィンセントは私の頭に顎を乗せ、ぎゅうぎゅう抱きしめながら言う。
「ヴィンセント様には公爵家のお仕事がたくさんあるじゃないですか」
「シャーリーより大切な仕事などない。シャーリーのためならいくらでも時間を取ろう」
「それはだめです! ちゃんとお仕事してください!」
私が言うと、ヴィンセント様はむくれてしまう。
本当に残念なイケメンだ。外見は申し分ないのに、中身はロリコンだし大人げないし、残念過ぎる。もったいない。
幼女が好きだから結婚しないのかと思っていたけれど、案外深く付き合うと相手に本性がばれてうまくいかないだけなのかもしれない。
私が憐れみの目で彼を見ると、ヴィンセントは不思議そうな顔をした。
「どうしたんだい? シャーリー」
「いいえ、なんでもないですっ。お勉強はマイラお姉さんに教わるけれど、ヴィンセント様にはたくさん遊んでもらいたいなぁって」
私が笑顔で言うと、彼は途端に破顔した。
「ああ、もちろんいいよ、シャーリー。今度の週末なら一日時間を取れるから、どこかへ遊びに行こう」
「わぁい、嬉しいです!」
私はヴィンセントの膝の上できゃっきゃと笑って見せる。ヴィンセントが悶えて抱きしめていた腕をさらに強くするのがわかった。
「マイラ殿にシャーリーを取られるみたいでちょっと寂しいけれど、シャーリーが彼女に勉強を教わりたいと言うのなら応援しないとな。がんばれよ、シャーリー」
ヴィンセントはそう言って私の額にキスをする。
「がんばります!」
「シャーリーならきっとできるよ」
その日はヴィンセントに抱き締められたまま眠りについた。
身動きがとれなくて若干寝苦しい。
でも顔を上げるとヴィンセントの幸せそうな顔と目が合うので、まぁ今日くらいは抱き枕にされてあげてもいいか、と目を閉じた。
***
数日後、早速マイラが家庭教師としてやって来た。
「シャーリーちゃん、早速魔法の勉強を始めましょう!」
私の部屋までやって来たマイラは、鞄から魔導書や杖、木製の人形など魔法のお勉強に必要そうなものを出してテーブルに並べる。
マイラはその中から杖を手に取ると、私に渡した。
「シャーリーちゃん、はいどうぞ。貸してあげるわ」
「わぁ、すごい! これは魔法使いが使う杖だよね? 絵本で見たことがある!」
「そうよ。魔法を習いたての頃は補助する道具がないと難しいから、こういう杖を使うの。慣れれば道具なしでも色んな魔法を使えるようになるわ。
けれど、属性のないシャーリーちゃんだと、この先も多分ずっと杖が必要かもしれないわね……」
マイラは頬に手を当て、残念そうに言う。
今日も今日とて嫌な女だ。
「そうなのね……。シャーリーは杖なしで魔法を使うことができないの……」
「ええ。でも、人より劣っていることはどうしようもないわ。少しでも追いつけるようにがんばりましょう」
マイラは優しい笑みを浮かべて言う。私は元気に「うん!」と返事をした。




