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驚いたことに、私は全ての石に適合した。
特に透明の石と黒い石……光魔法と闇魔法の属性を持つ魔法石に触れたときは、とても無視できないほどの光が手元から溢れだした。
どうやら、シャーリーは全属性の魔力を持っているようだ。それも、かなり強い力を。
私が自分の体に感心していると、マイラは笑っていない目で口元を歪め、何とも歪つな笑みで私を見る。
「シャーリーちゃん……。残念ながらあなたはどの属性も持っていなかったみたいね」
「えっ? いや、どの石にも明らかに反応していたけれど……」
「それは気のせいよ。いい? シャーリーちゃん。ルーサ王国では魔法を使えない者はそれはそれは苦労するの……。けれど、地道にコツコツ頑張れば、人並みくらいの生活は手に入れられないこともないわ。険しい道のりになるでしょうけれど、気を落とさずに頑張りましょう」
マイラは私の手を取り、神妙な顔で言う。
その言葉でマイラの目論見を確信した。彼女は私に自信を失わせたいのだ。
マイラの言う通り、この国で魔法が使えるかどうか、どのくらいの魔力を持っているのかどうかは一生を左右する。
魔法をうまく使える者ほどいい学園に入ることができ、いい仕事に就きやすくなる。どんな場所にいっても魔力の高い者は優遇される。
全属性の魔力を持っている者なんてそうそういないから、成功は約束されたようなものだ。
私はわざと不安げな声で尋ねる。
「え……っ、私ってもしかしてだめな子なの……?」
「だめな子、とは言い切れないわ。属性を持っていなくても、練習することで簡単な魔法を使えるようになる人もいないではないもの」
「本当っ? でも、さっき体の中を気が巡った気がしたのは気のせいだったのね。勘違いしちゃって恥ずかしいわ……」
「ええ、勘違いは恥ずかしいことよ。でも、大丈夫。これから同じテストを受けることがあっても、その時はさっきのように少し不思議な感覚があったくらいで騒がなければいいのよ。
気にすることはないわ。初めてのテストで気が高ぶって、これは魔力なんだと勘違いしてしまう子は少なくないもの」
「そっかぁ……。私みたいな子もいるのね」
「ええ。でも、属性がないなんて恥ずかしいことを知られないためにも、テスト自体受けないほうがいいわね」
マイラは優しげな声で言い聞かせるように言う。
私がこれから同じテストを受けて、魔力があると発覚しないように仕向けているのだろうか。
私はにやつきそうになる口元を押さえ、悲しい顔を作った。
「……マイラお姉さん、私ってだめね……。こんな私でも練習すれば魔法を使えるようになるかしら?」
「大丈夫よ、シャーリーちゃん。私が教えてあげるわ。そうしたらきっと人並みくらいにはなれるわ」
マイラは女神様みたいに優しい声で言う。
私は笑いを噛み殺しながら、「ありがとう、マイラお姉さん!」と返した。
なんだかおもしろいことになった。マイラがなぜ会ったばかりの私にここまで悪意を持っているのかはわからないけれど、向こうがその気なら利用してやればいいのだ。
せいぜい、私のことを何もわからない子供だと思っていればいい。
引き返せないところまで来てから、ゆっくり突き落としてやるから。




