びーちゃんのしっぽはいたいいたい
ちきちゃんは3さいです。
ちきちゃんのたいせつなぬいぐるみは、ヘビのびーちゃん。シッポのところがとくにお気に入り。だから、びーちゃんのピンク色のシッポの先っちょのところは、ぼさぼさしています。
「はい、びーちゃん、ねんねのじかんですよ」
ちきちゃんは、びーちゃんをふとんに入れると、とんとんして、おかあさんをするのです。
「はい、びーちゃん、ごはんのじかんですよ」
ちきちゃんは、ごはんのおいすに、びーちゃんをすわらせて、いっしょにごはんをたべます。
テーブルにあごをのせているびーちゃんは、おおきなおめめで、ちきちゃんをみています。
「びーちゃん、ぶろっこりーもたべようね」
びーちゃんの前には、ちきちゃんのたべものもおかれます。だから、びーちゃんの口のまわりは、ちょっとカピカピしています。
ちきちゃんは、びーちゃんをおふろにもつれていきます。
「びーちゃんは、ここで待っててもらおうね」
おかあさんがいいます。
「いや、びーちゃんもいっしょにおふろ」
「びーちゃんがおふろにはいったら、今日いっしょにねむれないのよ」
ちきちゃんはかんがえます。
「びーちゃん、まっててね」
びーちゃんは、おふろのとびらの前におかれます。だから、びーちゃんは、ほんのすこしだけ、ゆげにあたたまるのです。
びーちゃんは、ちきちゃんが初めてどうぶつえんに行ったときに、よちよちあるきの、ちきちゃんのぬいぐるみになりました。おじいちゃんが、かってくれたのです。
おかあさんも、おばあちゃんも「おんなのこでへび?」といいましたが、ちきちゃんは、びーちゃんをもらうと、にっこりわらって、シッポをしがしがしはじめました。
びーちゃんのあたまの中には、シャリシャリが入っていて、からだは、たくさんの四角い色の布でできています。なんのもようのない布や、ほしもようの布、チェックのもよう、みずたまもようの布もあります。
ちきちゃんは、そのぬのも、だいすきでした。ひとつずつおさえながら、「ぴんく」「きいろ」「みどり」「あお」「きらきら」「まる」「しかく」とにこにこびーちゃんにおしえます。
ちきちゃんが泣いている時は、いつもシッポをしがしがします。びーちゃんはちきちゃんが泣き止むまで、ちゃんとシッポをしがしがさせてあげるのです。
そうすると、ちきちゃんは、ゆっくりぐっすりねむるのです。
だけど、さいきん、おかあさんにいわれます。
「ぼさぼさのかぴかぴ。たべるとばっちぃのよ」
びーちゃんのピンクのシッポは、ぼさぼさのかぴかぴなのです。
「もう、おねえちゃんだからね、かみかみはやめないとね、びーちゃんがいたいいたいよ」
びーちゃんは、思います。
いたくないよ、と。
そんなあるひ、朝おきたちきちゃんは、おどろいて「おかあさぁん」と呼びました。
「びーちゃん、シッポけがしたの。いっぱいでてきたの」
「あら、あ、ちきちゃん、あーんして」
ほんの少しあわてたおかあさんが、ちきちゃんのお口の中をのぞいたあと、ちきちゃんのびーちゃんを受け取りました。シッポからは綿がたくさんでてきています。
「ほら、かみかみするから」
ちきちゃんは、「うん」とうなづきました。
「びーちゃん、どうしよう」
「そうね。おいしゃさんに行かなくちゃなりませんね」
おかあさんが、にこにこ笑っていいました。
「おいしゃさん、いたい?」
びーちゃんも、ちきちゃんと同じこと思いました。
いたいの?
「だいじょうぶ。おいしゃさんはこわくないでしょう?」
ちきちゃんは、うーんとかんがえながら、いつものおいしゃさんの顔を思いうかべました。
「うん、だいじょうぶ」
「びーちゃんのいたいのも直してもらいましょうね」
そして、ちきちゃんは、びーちゃんをお母さんにあずけて、ようちえんに行きました。
その日の夜、ちきちゃんは、ひとりでねむりました。
びーちゃんは、にゅういんすることになったのです。
シッポの色がないからだそうです。
ゆめの中で、びーちゃんがおいしゃさんにもしもしをしてもらっていました。
おいしゃさんは、ねこでした。
「そうですか、シッポがいたいんですか」
「そうなの。シッポがいたいの。でも、ちきちゃんはシッポがすきなの」
「それはたいへんですね」
おいしゃさんが、たちあがって、「ぴんくがでてくるまで、ほうたいをまいておきましょう」とほうたいをもってきて、くるくるまきます。
びーちゃんのけが、いたいのかな?
ちきちゃんは、よしよししたくなって、手をのばしました。
いたいのいたいのとんで行け~
びーちゃん、がんばって、はやくなおしてね。
びーちゃんが、うんと言った気がしました。
それから、ちきちゃんは、ひとりでごはんをたべました。
にがてなブロッコリーもたべました。
おふろもといれも、びーちゃんにまっていてもらわなくてもはいりました。
よる、目をつぶってなにもみえなくなっても、ひとりでねむりました。
だって、びーちゃんもひとりでがんばってるんですもの。
ちきちゃんは、おかあさんに「おねえちゃんになったね」「すごいね」とよく言われるようになりました。
びーちゃんがいなくなって、たくさん朝が来たあとのことです。ちきちゃんのまくらのそばに、びーちゃんがこてんとねむっていました。
「びーちゃんだっ」
いつもおねぼうのちきちゃんは、すぐにめがさめて、びーちゃんをだっこします。
「あのね、ちきちゃんおねえちゃんになったの。すごいのよ」
ぎゅうっとだきしめたびーちゃんのピンクのシッポがきれいになっています。おかおもきれいになっています。
「びーちゃん、おかおあらったの? ちきちゃんもあらう」
そういって、ちきちゃんは、せんめんじょへと行きました。
びーちゃんは、ちきちゃんといっしょにごはんのいすにすわります。
だけど、びーちゃんは、ちきちゃんのにがてなやさいをもう食べません。
びーちゃんはちきちゃんといっしょにおふろへといきます。
だけど、ちきちゃんは、いっしょにはいるとはいいません。
びーちゃんは、ちきちゃんといっしょにおふとんに入ります。
だけど、ちきちゃんは、もうシッポをかじりません。
だけど、ちきちゃんはびーちゃんのシッポがだいすきなのです。
シッポをよしよししながら、ねむります。
だって、もうびーちゃんがいなくなるのはいやなのですもの。