セーラとエリザベス
「お母様!いかがでした?」
アーサーの妹のエリザベスが控え室でいまかいまかと待っていた。怒っている母が父のところに直談判に出掛けた以上、あまり近くにいない方が安全である。何がとばっちりで自分に向かってくるかわからないからである。
「おほほ、詳しいことは馬車の中で話すわね。さあ、ゼオン侯爵のところにはすでに先触れを出してありますからね。今から、そちらに向かいましょう。その後、シルヴィアの店に行きましょう」
シルヴィアの店とは今流行のドレスの店である。以前は、ランバート商会にシャーロットのドレスを頼んだが、封筒がゲルトランに横流しされたという話を夫から聞き、自分のドレスは一切ランバート商会に頼まなくなっていた。夫たちは、別にランバート商会自体が悪いわけではないと冷静だが、セーラはどうしても許せないでいたのである。
「まあ、今のお話をお聞きすると確かにアーサーお兄様が戻ってくるのは、今から24日後くらいと考えるのが妥当ですわね。」
セーラから事情を聞いたエリザベスは、ゼオンまでの往復、シャーロットの説得、そして移動の準備を考えると最短でそんなものではと計算する。
「ええ、しかも、フリードってば、アーサーにたった1ヶ月しか休暇を与えなかったそうなの。なので、王都に戻ってきたら休暇はあと少しにしかならないわ。さすがに、1ヶ月以内の休暇中に婚約することは難しいでしょうけど、急がないと戻ってきたらすぐ仕事に忙殺されるのは想像できますもの」
「ああ、あの天使のようなシャーロット様をきちんとお姉様とおよび出来る日が近いのですね」
エリザベスは、シャーロットが王都のタウンハウスにくると、セーラと二人でタウンハウスを訪れ仲良くしていたのだ。その頃から、シャーロットの天使のような笑顔と振る舞いに感動し憧れすら抱いていたのだった。
「エリザベス、あなたはとても喜んでいるけど、シャーロットちゃんは、あなたより一つ下の16歳だということを自覚していて? シャーロットちゃんが今回16歳で婚約するわけだけど、それには事情があったこと、なのにあなたときたら未だ婚約もしておらず、情けないと思わないの?」
しまった、こんなところからとばっちりが・・・
「あら、お母さま、アーサーお兄様も、エドワードお兄様も婚約していないわよ」
「あの二人は事情があります。シャーロットちゃんを忘れられずいつまでも婚約者を決められなかったアーサーと、流石に兄より先に結婚するわけにいかなかったエドワード、あなたは単になかなか相手を見つける気がなかっただけよね?」
にっこり貴婦人らしく微笑んだ母が自分の方をじっと見る。
仕方なく、
「なかなか好きになれる方がいらっしゃらなくて。でも、ちゃんとまたパーティーに参加して頑張りますわ」
と哀しそうな顔をした後やはり、母譲りの笑顔で返す。
はあ、どうも、アーサー兄様を見ているから、どうしても自分が好きだと思う人と結婚したいという夢を持ってしまうのよね。そもそもお母さまもお父様も二人とも恋愛結婚だったくせに、私にさっさと結婚しろというのはひどくない?
それに、私は、イーズス伯爵家に生まれたから、騎士団の面々とも知り合いだし、同じ歳ぐらいの男の子たちにはなかなか魅力を感じないのよね。そうはいっても、騎士団の男性はロマンティックさには欠けるし。
ため息をついていると、ゼオン侯爵家の王都での屋敷に到着したのだった。




