騎士団長室
アーサーが、休暇を取って飛び出してしまったので、報告書やら手配など、いろいろな第二騎士団の書類が溜め込まれており、それを事情を知っている自分が手伝う。
そもそも自分は、すべての騎士団長の総括としての仕事をするはずなのに、この事件のまとめを受ける立場の自分がまとめを書いているのである。本当にいただけないとイライラする。しかし、あの、氷のように冷静沈着な騎士団最強と言われるアーサーの唯一のポンコツ部分といえばシャーロットである。
親としては、シャーロットにプロポーズする間くらいの仕事のサポートは仕方あるまいと思っている。
そこに
「お待ちください」
と慌てている秘書官の声とガヤガヤとする音が聞こえたと思ったら、バーンとドアが開き、驚いて顔をあげると、妻が微笑みながら立っていた。
「せ、セーラ、どうして王都に・・」
「旦那様、お話があって参りましたの」
その声を聞いただけで、しまった、すでに情報が届いてしまったかと気がつく。
あとで手紙を書こうと思っていたのだが、なかなかかけなかったのだ。
「お、落ち着いてくれ、セーラ。いつも君は美しいな。今日は、さらに美しい。
シャーロットの件はきちんと私から手紙を書く予定でいたんだ。間違った情報が伝わってもよくないと思ったんだ」
「あら、そうですの?まあ、良いですわ。旦那様にお話ししたいことは山ほどありますが、それよりも、重要なのはシャーロットちゃんとアーサーのことですもの。さあ、包み隠さず全てをお話しなさって?」
アーサーが氷の騎士と言われる時の微笑みに似た冷たい微笑を浮かべながらフリードを見つめたセーラを見て、これは後が長いなと覚悟した騎士団団長だった。
「つまり、シャーロットちゃんは、悪党のゲルトランからギルバートと逃げて、メイドのエマに偶然助けられてエマの実家のあるゼオンに移動したと。そして、そこで、平民となって、治療師の資格をとって働き、ギルバートもその才能で、ゼオン侯爵様のところで働くようになった。今年王太子殿下がゼオンに行かれた時に、偶然会ってアーサーはシャーロットだと気がついてプロポーズしたけど、自分はもうふさわしくないからといって断られた。
でも、諦めきれないアーサーは、ゲルトランの罪を明らかにして、
再度プロポーズに昨日出発した。 これでオーケー?」
コクコクと頷きながら、
「私もアーサーに懇願されて許可を出した。シャーロットは、一度は我が嫡男の嫁と定めた娘、しかも我が親友ロバートの娘でもある。平民として過ごしていた時期があろうと、治療師という仕事をこれからもしたいと言われようとも、医者になりたいと言われようとも、我が領地には、セーラ、当代一の賢夫人と言われるきみがいる、エリザベスも手伝うだろう。なので、シャーロットを嫁として受け入れ・」
「まああ・・素晴らしいわ・・愛ね。身分のために引き裂かれそうになる二人、でもその困難を二人で乗り越えようとするの、そしてそれを支える義理の母の深い愛、すごいわ、完璧よ、感動的よ」
と口に手を当てて震えながら感動している。
「セーラ?」
「フリード、素晴らしいわ。さすが我が夫!遠縁の娘と結婚させると言い始めたときは離婚しようかと思ったけど、よく決断しました。ああ、シャーロットちゃんとまた会えるなんて、感動だわ」
「いや、まだ、プロポーズが受け入れてもらえるとは限らな」
「何を言っているの?あのシャーロットちゃんについてだけ呆れるほどしつこいアーサーからシャーロットちゃんが逃げられるわけがないでしょう。すぐに婚約式だわ。あの、ポンコツがゆっくり待つなんて出来るわけがないわ。急がなくては」
「何を急ぐんだ?」
「まったく、これだから男親は!婚約式の準備に決まってます。一番大切なのは、シャーロットちゃんのドレスですもの。どうせ、アーサーは軍の礼服を着るに決まっているのだから。そうだわ、ギルバート君にも会いにいかなくては。シャーロットちゃんの身長を確認しなくてはね。フリード、私、王都のタウンハウスに今日から泊まりますからね。あなたもちゃんと毎日帰ってきますよね?」
「はい」(仕事があるんだが・・・はあ、持って帰るか・・・)
フリードは、学生時代に公爵令嬢だったセーラに一目惚れして身分が下の伯爵家である自分と結婚してもらったという弱みがある。正直ベタ惚れなのだ。
普段は、自分が多忙で領地の運営が重要なので、妻は領地にいることが多い。しかし、タウンハウスにくると元公爵令嬢の立場を利用して精力的に動き社交界でもある一定の地位を占めている。
きっと、王都きってのデザイナーに急ぎドレスを発注するに違いない。
「さあ、急がなくては。エリザベスや私のドレスも新調したいけど、シャーロットちゃんが最優先だわ。婚約式の会場も考えないとね、招待リストも必要ね、じゃあ、フリード、とりあえず忙しいから、あとのお話はタウンハウスでゆっくりお聞きするわ」
と、頬にキスしてくれたと思ったら嵐のように去っていったのだった。
帰った後が、恐ろしいな、隠していたことをずっと責められそうだ・・・
深いため息をつく騎士団団長であった。




