アーサーとシャーロットの王都への旅2
出発当日、
「アーサー様、お支度が整いました。」
ノアから声がかかる。
「うむ」と玄関に向かうと、
シャーロットが可愛い旅姿で、皆と別れを惜しんでいるところだった。
「はー、シャーロットは何を着ても天使で美しいな」と心で思う。
「さあ、シャーロット、遅くなると大変だ」と手を取り、馬車に向かう。
うん?後ろから静々と一人の若いメイドが付いてくる。二十歳くらいだろうか。
「彼女は?」
シャーロットが、
「ノアさんが、私を一人にすることはできないからお世話をしてくれるメイドをエマの代わりにつけてくださったんです。ケイトと言います。私は、一人でも着替えたりできるのよと言ったのだけど、これは貴族の令嬢の嗜みだと言われたの」
とはにかみながら微笑む。
いや、確かに、貴族の令嬢はなんでも一人ではできないな、その通りだ、だけど今回は馬車一台なんだが、どこに乗るんだ?
ノアが後ろからすっとやってきて、
「未婚の貴族の令嬢が男性と同じ馬車に二人きりで乗るなんてことはもっての外でございます。
イーズス卿が今後婚約されるお相手であったとしても、まだ婚約式はされておりませんので、メイドが同乗するのは当然のことでございます」
とにこりと微笑む。
「その通りだな、ノア殿、非常に丁寧な対応 痛み入る。」
と、これも貴族の嗜みと表情を変えずに礼を言う。心の中では、この野郎と睨みつける。
「いえいえ、これしきのこと、当然のことでございます。シャーロット様は、王都で手続きをしたのち、当侯爵家のご養女となることが決まっているお方、少しの瑕疵もあってはいけません。王都までご宿泊される館や宿にも、きちんと配慮できるものを手配させていただきましたのでご安心ください。」
一時期、旦那様の奥様にとも考えていたシャーロット様を当然とばかりに王都に連れて行くアーサー殿、これくらいは嫌がらせのうちにも入らないはず
とノアは心の中で思っている。再度ニコリと微笑む。
ノアだけでなく、周囲の使用人からも、
我が家のお嬢様になったシャーロット様に迂闊に手を出したりしたら許せねーとばちばちと視線が飛んでくる。
「私が、領主様の養女になるなんて本当におこがましいのだけど、皆さんに祝福されてとても嬉しいです。ゼオンは、私にとって第二の故郷なのです。これからも、ゼオンのために尽力するわね。協力してくださいね」
とシャーロットが皆に声をかける。
「お嬢様」「シャーロットさま」と皆涙ぐむ。
「いやいや、君は将来僕のお嫁さんになるんだからね、ゼオンのためでなくて、私やイーズスのために尽力するんじゃないの?」と言いたいところだが、ぐっと我慢する。
オスカーが、馬車のドアを、笑うのをこらえながら開けてくる。
このやろう、楽しんでいるなと睨みつける。
「ご苦労」
と声をかける。
シャーロットが、
「オスカー、よろしくね」と声かける。
「お任せください。私は、馬で外から馬車を護衛させていただきますから」
と返事する。
「本当は、オスカーも一緒に馬車で過ごしてくれたら昔の話とかもアーサーと一緒にできたのだけど、護衛なら仕方ないわね。また、教えてね。」
「シャーロット、オスカーに聞かなくても私がなんでも教えてあげるからね」
アーサーが話を遮ってくる。
オスカーは、何を教えるんだ、何をと心の中で笑いながら
「ぜひ、若と馬車でゆるりとお話しください(邪魔者がいてお生憎様ですなあ)」
と返事をする。
10日間の王都への旅が始まったのだった。
当然ながら、アーサーにとって、とても幸福な、しかし我慢の日々の始まりであった。




