葬儀
2週間後、領主の館では、4人の葬儀が行われた。そこでは、使用人たちが泣き崩れる中、領主の妹夫婦が黒衣で到着した。
執事のウィリアムが
「キャロライン様」
と声をかけるとキャロラインは、
「あら、ウィリアム、大変なことになったわね。でも、安心なさい、これからは、私の息子ヘンドリックがこの領地を継ぐ事になるのだから。それまでは、私と夫が領主代行として支えていくから安心しなさいな。」
「いやあ、義兄たちは本当に残念だったな。しかし、良い人ほど短命というもの。ここからは、私がきちんと領主代行として管理してやるからな。」
と男爵が薄ら笑いをしながら声をかける。
「ゲルトラン男爵、随分な言いようではないか。葬儀の席でそのようなことをいうのはマナーとして如何なものか。」
イーズス伯を始め、参列していた友人である貴族たちからも反感のこもった目で見られ、
「これは、失礼しました。伯。あくまで使用人たちを安心させようという想いからきたこと。お気に障りましたら申し訳ない。」
と軽く謝罪しつつ、
「おや、これは、これは。こちらはご子息か。シャーロットとは婚約されていたとか。なるほど。素晴らしい美丈夫であらせられますな。なんでも、婚約式だからと雨の中無理に出かけたようですな。それで土砂崩れにあってしまったとは。まあ、シャーロットも浮かばれませんなあ。」
アーサーは頭の中が真っ白になる。
「私の?私のために婚約式に間に合わせようと?それで雨の中移動したというのか?そうでなければシャーロットは死ななかったのか?」
「ゲルトラン男爵、なんと失礼な物言いだ!」
とイーズス伯が怒りで大声を出す。
「おやおや、これ以上お話しするとご立腹されるのが悪化するというもの。失礼しますよ。私は、領主の館の方にこれから移動せねばなりませんので。ははは」
と男爵は夫人と席をたって行った。
ウィリアムが、
「イーズス伯、アーサー様、申し訳ありません。アーサー様のせいでなどはありません。確かに天気が悪そうだったので、数日ずらそうという話になっていたのです。ところが、王都から手紙が届き、それを読んだ旦那様が手紙を握りつぶしたと思ったら、やはり今日出発するとおっしゃって」
「手紙?どこからだったんだ。」
とイーズス伯が尋ねると
「旦那様が懇意にされていたランバート商会でございます。」と答える。
「で、それほどいそいだのはどんな用だったんだ」
とイーズス伯が尋ねると、ウイリアムは首を横に振り
「旦那様はその時教えて下さりませんでしたが、どうもかなり深刻な様子でした。申し訳ありません。まだ、それどころではなくランバート商会にも問い合わせができておりません。」
と答えた。
その後、ランバート商会に問い合わせたところ、そのような手紙は商会から送っていないとのことで、誰が何の手紙を送ったのか全くわからないままとなったのだった。
後ろ髪引かれる思いで葬儀の後王都に戻り、参加できなかった卒業式の証書を受け取り、9月からの騎士団の準備に備えつつ、毎日、各報告書を読みながら過ごす日々。ふと、気がついてオスカーに声をかける。
「オスカー、馬車に同乗していた侍女だがリリアとメアリーと書かれているな。エマはどうしたんだ。葬儀の時にもいなかったよな。」
「ああ、エマなら、実は数ヶ月前に結婚して田舎の方に帰ったらしい。どうも、相手は屋敷に出入りしていたパン屋らしくてな。でも、実はパン屋の倅には親の決めた婚約者がいたらしくって、それで二人で駆け落ちしたらしいんだ。ケント家でもびっくりしたようだが、姫さんは好きになったんだからと応援していたらしい。だが、婚約破棄しての駆け落ちだろ。聞こえが悪いし、婚約間近の若の耳には入れるなとシャーロット様に厳命していたらしいよ。いや、全然若からこのエマの話を聞かないなと思っていたら、そういうことだったらしい。」
なるほど。シャーロットは半年ほど前に、エマに好きな人ができたみたいなのだけど相手がだれか教えてくれない、なんてことが手紙に書かれていたのに、そこから全然エマのことを書かなくなったなあと思ってはいたのだが、そういうことだったのか。
「エマの出身地はどこだ?」
「え、そんなところにまで固執するわけ。確か、ゼオンだったかあのあたりのかなり辺境だったと思うぞ。 よもや行くわけないよな。」
「流石に行くわけがない。単にいつか行く時には気にかけておこうと思っただけだ。」
9月入団式が行われ、若干14歳での最年少での騎士団への入団を果たしたアーサーは訓練に明け暮れる日々を始めたのだった。




