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ケント領からの報せ


6月、来週には14歳ながらに王立学院を卒業するため、部屋の片付けを行っていたアーサーは、ふとシャーロットから送られてきた美しい筆跡で書かれた手紙を繰り返し読みながら、一緒に送られてきた剣帯を触り鼻歌を歌っていた。


「アーサー様、お元気ですか?こちらはようやく遅咲きのリラの花が終わろうとしています。この春の花が終わるのはいつも寂しいものですが、今年はこれから夏が来るのだわ、もう少ししたら王都に行ってあなたに会えるのだわと思うととても楽しみです。今回は、剣帯を作ってみました。気に入っていただけるとよいのですが・・・」


「シャーロット、僕も楽しみにしているよ。婚約式のドレスは届いただろうか」と、しおりに作り直した勿忘草を本から取り出し眺めていたところに、走ってやって来る足音が聞こえて来る。


ドアをドンと開け手紙を握っているオスカーに

「何が起こった」と聞く前に


「若、落ち着いてくださいよ。いま、館から連絡がきた。ケント領主一家がこちらに向かう途中、土砂崩れにあって亡くなったと。」


目の前が一瞬真っ暗になった。

「土砂崩れ?亡くなった?誰が?ケント領主一家?」


「若!待ってください!」


後ろから声が聞こえてくるが気にしていられない。急ぎ、自分の馬を連れてこさせ、館に向かう。

館に着いたところ、すでに私設騎士団が出発の準備を行っている真っ最中だった。


「ショーン、何が起こったんだ!どういうことだ!!」


ショーンはオスカーの父で私設騎士団の団長でもある。


「おお、若、先ほど街道から連絡があり、ケント領を出たところの街道で土砂崩れがあったらしくそれに領主一家が巻き込まれたと。」


「ばかな。確かに街道沿いに少し斜面がゆるい場所はあったがそれほどではなかったはずだ。」


「その通りです。しかし、街道沿いの兵からの連絡です。急ぎ、私たちが出発します。」


「待て、私も同行する。」


「若!もしもですぞ、仮に、この話が本当だとしたときに、土砂崩れで潰れてしまったシャーロット様の姿を見ることができるのですか!」


アーサーは、きっとショーンを睨みつけ、

「バカなことを、シャーロットが死ぬわけがない。仮に、そうだとして、その現実から逃げるような男だとお前は私を思うのか!」



「失礼しました。若のシャーロット様へのお気持ちの強さを知っているためについ。老婆心でございましたな。では、お急ぎください。殿のご許可はいただいております。殿もできるだけすぐに騎士団を率いて向かうと言われております。」



アーサーは、学院の制服から私設騎士団の制服に着替え、急ぎ、私設騎士団と現場に急行したのだった。


不眠不休で馬を走らせ、迂回路を使用するために本来なら二日以上かかるところを翌日現場に到着すると、7、8人の街道の兵士が現場を封鎖していた。


ショーンが、

「我らはイーズス騎士団、こちらはイーズスご嫡男、アーサーイーズスさまである。」

と声を上げると一斉に兵士が敬礼する。

少し目の濁った40代ほどの男が、

「隊長のジョンであります。とりあえず現場はそのままにしております。結構、雨でいろいろなものが流されたようです。遺体は教会の霊安室に安置させていただいております。」



遺体?誰の遺体のことだ。シャーロットの遺体?そんなことありえないと心に思いながら霊安室に向かう。

霊安室には、12体の棺があった。

兵士は、

「領主ご夫妻のご遺体はこちらです。他は、服装から御者や護衛兵、侍女のようです。」

と指をさして説明する。


ショーンが、

「お子様は?家族4人で王都に向かっていたはずだが」と尋ねると、ジョンが、


「馬車は2台で一台が土砂崩れでほぼ完全に埋まっておりました。もう一台は、土砂に押されて街道から崖に落とされたようで、川沿いで潰れた状態で発見されています。お子さんのご遺体が河に落ちたのではないかと思われます。五日間搜索しましたが見つかってはおりません。周囲に落ちたときの衝撃で亡くなったと思われる召使いや護衛兵などが何人か遺体で発見されております」



「子供はいない?遺体はない?」


シャーロットは死んではいない。そうだ、来週には婚約式、死ぬわけがない。


「ショーン、現場に向かうぞ」とアーサーが声をあげる。


すると隊長のジョンが

「あのー、あの河に子供が落ちたら生きていられるわけが…ひっ! し、失礼しました。ご案内します。」


ショーンに睨みつけられ、ジョンは言葉を中断し他の兵隊に「おい、行くぞ」と促がす。


「感じの悪い奴らだ。本当に我が王国の兵士か。情けない。」とこぼすと、

「若、街道の兵士は騎士団に入り損ねたやや落ちこぼれが多くなりやすいのです。ぜひ、ここからまた規範を示していかなければなりませんな。」




現場に到着すると、道路はがけ崩れで封鎖されてしまっており、1台の馬車がほとんど埋まっている状態である。色々な荷物が散乱している。荷物の中には、ドレスや靴も散乱している。あの白いドレスは婚約式のために俺が贈ったものだ…..胸の奥からこみ上げてくる感情に蓋をする。


あちらですといわれ、目を向けると、もう一台の馬車が崖を滑り落ちるように落ち、さらにあと少しでまた崖になっているところで潰れている。

雨の直後でかなり地面が緩んでおり確かに土砂が崩れても仕方ない状態になっている。


中には黒くなった血痕があたりに付着しており、子供の本と靴が片方だけ落ちており、もう一冊はハーブの本、裏を見るとシャーロットのサイン。


「探すぞ、」アーサーが言う。

「若?」


「この一帯、川下も含めて全ての周囲を捜索だ。急げ。」


ショーンが

「若のおっしゃる通りだ、もう少ししたらイーズス閣下もこられる。急ぎ周囲を捜索するぞ。」

と号令をかけると、

「はっ」と兵が一斉に敬礼し、捜索を開始した。


五日後、懸命な捜索にも関わらず子供達は見つからず、川下付近で見つかったのは、ギルバートが履いていたと思われる靴とシャーロットのパニエと思われる一部だったことから、河に流されて亡くなったと判断されたのだった。

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