再会と別れ
治療院に到着すると、その外には、警護兵が何人か立って警護をしている。
アーサーを見ると、敬礼する。
「ご苦労、中に入る。警護をしっかり頼む。」
中に入って、待合室からそおっと処置室を見る。口を布で覆ったエミリーが怪我をしている兵や住民を一生懸命治療しているところだった。
その真摯な姿に心打たれる。
待合室で、ずっと待っていると、エミリーが口を覆っていた布を外しながら処置室から出て来た。
はっと、こちらの方に気がつき、やってくる。
「副団長様、今日は、本当に危ないところを助けていただきありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いか・・・本当に感謝します。ありがとうございました。
でも、どうしてここにいらっしゃるのですか?先ほど王太子ご夫妻は、ゼオンの街に移動されたと伺いましたので、てっきりご一緒されたのかと。・・」
「君に会いたかったからだ。シャーロット。君はシャーロットだろう?」
「え?私はエミリーといって・・・」
「メガネも外れている、そばかすのようなものも消えているよ。髪の毛の色は違うし、目の色も少し昔とは違うようだ。下見であった時にはわからなかったが、先ほど街で私に泣きながらしがみついた時、そしてその後笑った時にわかった。シャーロットだと。だが、シャーロットは、6年前に殺された筈だ。どうか教えて欲しい。夢ではなく、本当にシャーロットだと。」
少しためらった後、これ以上は無理だと考えて答える。
「アーサー、おっしゃる通りです。私は、シャーロットです。あの事故の後、なんとか弟とともに生き延び、追っ手のゲルトランから逃げるようにゼオンまできました。そこで、平民となり生きてまいりました。髪の毛の色は目立つので、染めています」
アーサーは、歓喜で一杯である。シャーロットを抱きしめる。
「良かった。生きてくれていたんだ。もう、二度と会えないとずっと絶望の中で過ごしてきた。 神に感謝を。 これからはもうなんの心配もいらない。ギルバートも生きていたなんて本当に良かった。王都に戻ろう。そして、私の屋敷で過ごせば良い。あのゲルトランについてもこれから追いつめてやる」
「アーサー、待ってください。ゲルトランのこと、ギルバートのことはぜひお願いしたいです。でも、もう、私は、平民の娘です。見ていた通り、昔のシャーロットとは違うんです。怪我している患者や嘔吐している患者だって平気で見ることのできる平民の治療師なの。あなたの知っていたシャーロットではないわ。それにあなたも婚約間近だと新聞に載っていました。新しい婚約者の方に失礼だわ」
「何をいう、私は、誰とも婚約していない。それは、勝手に新聞が面白おかしく書いていただけだ。それに、ギルバートが子爵になれば君は、子爵の姉だし、私と結婚すれば伯爵夫人だ。君は、いまでも私の婚約者だ」
「いいえ、治療師は、尊敬されることもありますが、女性の場合、男に触ると軽蔑されたり、馬鹿にされることもありました。アーサー、あなた自身もあの時、私が、兵士に触れるのを見て不愉快に思ったのでしょう?平民の世界ですらそうなのです。私と結婚したらあなたが社交界で笑い者になるわ。でも、私は、いまの仕事に誇りを持っているのです。」
アーサーは、このままでは、シャーロットは、自分の前からまた消えてしまうのではと心配になる。
「シャーロット、私は、君が亡くなったと聞いた後もずっと君だけを思い続けてきた。諦めるなんてことはできない。まずは、ゲルトランの罪を暴き、ギルバートの貴族としての名誉を回復したい。お願いだ。ギルバートと王都にきてくれ。」
「アーサー…」
とシャーロットは涙がこぼれながら横に首をふる。
「ゼオン侯爵邸にギルバートがいます。ギルバートのことをお願いします。どちらにしても、私は、こんなに怪我をした人が多くいるこの街を離れることはできないし、離れたくない。ごめんなさい。」
アーサーは、シャーロットを抱きしめ、額にキスをする。7年前にキスしたときと身分も姿も全く違う、だけど、シャーロットが好きだという思いは変わらない。
「シャーロット、君が好きだ。ずっと私の気持ちは変わらないよ。今日は、もう時間がない。 また、迎えにくる」
アーサーは、翌日早朝、ゼオンからの護衛兵が到着し、警護が安定したのを確認してゼオンへ戻って行ったのだった。




