シャーロット 10歳
小声で「急いで!」と 雨の中ずぶ濡れになりながらシャーロットがギルバートを促す。しかし、ギルバートはゆっくりしか動けない。左足を引きずりながら動く。
「待って、姉様、足が動かない」草むらに二人で隠れて、
「見せて!」 足を見ると右足の膝下部分がかなり腫れている。
「ギルバート、足首を動かして」本人は動かそうとしているのだろうが動かない。
「腓骨神経麻痺だわ。さっき、馬車で下敷きになって圧迫したときに起こったのね。」とシャーロットは思った。何かギプスになるものはと考えた時、そうだと思い、シャーロットはスカートをめくった。
「うわ、姉様!」弟の口を手で塞ぐ。
シャーロットはスカートを捲ったと思ったらパニエの一番下のワイヤーを引っこ抜いたのだ。スカートを膨らますために細いワイヤーが沢山連なっている。その一本を引き抜き、ギルバートの足に巻きつける。即席ギプスである。
「ギルバート、どう?」
「うん、これならなんとか、」
「さあ、じゃあ走るわよ」
パニエを1本外した分、長くなったスカートが小枝に引っかかって破れるが仕方ない、
二人でできるだけ急いで坂を降りて行く、なんとか馬車から離れて、助けを呼ばなければ、町に辿り着かなければ。
お父様、お母様と心の中で叫びながら走って行く。
後ろからは、「いたぞ、捕まえろ」「殺せ」「他のやつは全員殺せ」という怒声が聞こえてくる。
坂をおりて道にでたと思って喜んだが、そこは崖で先には轟轟と音を立てる滝しかない。
「しまった行き止まりだわ」
「姉様、どうしよう」
その時多くの足音が近づいた。複数の男が山道を降りてくる。
「ようやく、見つけたぞ。手間をかけさせやがって」
「ゲルトラン!」
シャーロットは、
「なぜ?なぜ、あなたが両親を!父はあなた達の頼みをいつも聞くようにしてたのに!」
と叫ぶ。
ゲルトランは、
「ふん、頼み込んでもいつも融通してくれるわけではない。この間は、もうこれ以上は受け入れられないと断られたからな。それで考えたんだよ。義兄一家が事故で亡くなってしまえば、あの領地の正当な後継は、我が妻と息子のヘンドリックだとな。」
笑いながら、
「別に全員を殺さなくてもシャーロット、お前だけは残そうとも思ったんだぞ。そうしてヘンドリックと結婚させればそれでも良いとな。」
さらに言う。
シャーロットが
「なんてこと、誰がヘンドリックと結婚なんて。私はアーサーと結婚するのだから」
「いや、ギルバートがいなくなればお前はケント領の跡を継がなければならないからな。ただ、どうもイーズス家がこのところ我々を監視するようになってきたからな。何か気づいたのかもしれん。それなら、揉めないように家族全員の方が安心だと考え直したんだよ。」
「わたしは運が良い。本当は、盗賊に襲われるように見せかけるつもりだったんだが、大きな石を崖上から落としたらたまたま土砂崩れが発生するとはな。手間が省けたと言うものだ。」
「なんてそんなひどい。」
「さあ、二人とも、ちょうど良い。ここの崖から下に落ちるんだ。その方が手がかからなくて良いからな。それとも、子供二人、両親のように頭に石をぶつけられて死ぬ方が良いか?」
「おい、この子を俺たちにくれて奴隷として売るという方法もあるぞ。女の子は可愛い顔をしてるじゃないか、きっと将来の娼婦として高く売れるぞ」
下卑た顔をした男がそうゲルトランに話しかける。
「それもそうだが、生き残られると困るしなあ。」
と男たちが話し合っている。
シャーロットはこの男たちの奴隷になるくらいなら、死んだほうがましだわと歯を食いしばる。それにこの河…
「ギルバート、お姉さまに全てを委ねて。良いわね。ケント嫡男として誇りを持って」
ギルバートがうなずく。
ギルバートを連れて、走る、男たちが「おい、嘘だろっ」というのを後ろに聞きつつ、
ギルバートを抱きしめて崖から河に飛び込んだのだった。
「あーあ、あの女の子、やるなあ。でも貴族のお嬢様なんて泳げないだろう。男の子だってまだ、小さいよな。泳ぐなんてお貴族様にはできないのに。まあ、溺死かそれとも遺体が見つからないままか。まあ、そんなところだな。」
男たちは笑う。
「おい、ゲルトラン、分け前を忘れるなよ」
「わかっているとも。ただ、ここからの手はずを忘れるなよ。俺たちは一蓮托生なんだからな。」と笑いあって、もとも土砂崩れの場所へ戻って行く。
雨もどんどんひどくなって来ており証拠隠滅には丁度良い。
ゲルトランは、俺は運が良いとほくそ笑んだ。




