懐かしい味
「アーサー卿、よく我が領地にいらっしゃった。」
「ゼオン侯爵、この度は、よろしくお願い申し上げます。」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。さあ、護衛兵はこちらに集合している。案内しよう。そのあと、寝室や台所など必要とされるところをどうか確認してくれ給え」
護衛兵はきちんと訓練されており動きも機敏でこれは大丈夫だろうと思われる。
医師もゼオンの街にはおり、治療師の学校もあるとのことで体制は万全である。衛生面も整えられている。
「さすが、ゼオン侯爵領ですね。しっかり整えられている。特に、よそに比べて衛生面が徹底されていらっしゃる。これほどなのは王都でも無いように思われます。」
「ははは、ありがとう。さあ、よければお茶にしよう。我が家の自慢の庭も見てくれ。」
「これは…何と..噂には聞いておりましたが、素晴らしい。花のカーペットのようだ。美しい。」
「ははは。ありがとう。ラベンダーをはじめとした多くのハーブが植えられており収穫を毎日できるようにしてあるのだよ。庭師は毎朝大忙しだ。」
ふとアーサーは規模も中身も違うがシャーロットのことを思い出す。
「さて、あとはこちらの庭だ。
ここは、田園をイメージしてできるだけ野の花とバラや百合など一つの花が目立た無いようにして作ってあるんだよ。」
テラスに案内されたアーサーは、目を見張る。アーサーは、まるでシャーロットの庭だと思った。ケント子爵の庭もハーブが多くて、庭のテラスでお茶を飲むと癒されるような庭だったと。
「イーズス卿?何か?」
「いえ、あまりの可憐さに驚いたのです。」
「ふふふ、ありがとう。忘れな草に、薔薇が咲き始めて美しいだろう。ハーブも色とりどり咲いている良い時期にきていただいた。ここから夏になるとさらに、ラベンダーが美しい季節になる。殿下がいらっしゃる頃にちょうど見頃になると思うよ。」
忘れな草・・また、シャーロットの思い出が蘇る。
「素晴らしい庭ですね。ぜひ、庭師に会いたいものだ。」
「構わんが。ノア、レッドを呼んでくれ。」
ノアが頷きその場を去る。
しばらくして、
「旦那様、レッドが参りました。」
二人がやって来た。深く頭を下げている庭師に声をかける。
「素晴らしい、庭だ。これだけの庭を作るとなると大変だろうに。何かコツでもあるのかい」
「とんでもねえでございます。恐れ多いことでございます。肥料に工夫はしておりますが、それ以外は思いつきなんですで」
と返事する。以前から、情報が漏れることを警戒する侯爵からエミリーのことは話さないように注意されているレッドは、いつもごまかすようにしている。
アーサーもそれ以上は話が繋がらないままとなった。
「ああ、お茶が参りましたな。今回は、こちらで取れたハーブティーを用意しております。こちらにどうぞ。」
と案内される。これはとアーサーが目を見張ったのは、まずテーブルクロスである。
色とりどりのハーブをモチーフとして刺繍されている。これもまるでシャーロットの刺繍のように可憐だ。美しい。
お茶を飲む。
「これは・・・」
昔シャーロットが入れてくれたハーブティーのようだ。香りが良く、爽やかで少し甘みがあり、癒される。
「ははは。我が家は毎日のようにハーブが取れるので、色々とブレンドしたりして楽しんでいるのだ。おや、どうされた?」
「いえ、昔飲んだハーブティーやその時の事を思い出したのです。とても、懐かしい味がしました。ありがとうございます。」
「気に入ったのであればよかった。殿下ご夫妻にも喜んでいただけるだろう。」
「では、侯爵、これからペリエの街に移動します。お茶をありがとうございました。」
礼をして席を立つ。
「オスカー、どうだった?」
「ギルドに確認したところ、エマとトーマスという夫婦のパン屋がありました。残念ながら、なんでも奥さんが産気づいたからとちょうどパン屋を閉めるところでとても話は聞けなくて。3人目なんですとバタバタしていましたので・・」
「あのエマが3人の子供の母か。ふふふ。タイミングが悪かったな。」
「あの・・」
「なんだ。」
「いや、ちょうど自分が帰るときに、産婆さんが男の子と一緒にやってきたんです。産気づいたんだって、手伝いにきたよとか、産婆さんがまあ安心しなとか言いながら入ってきたんです。その男の子が、なんかどっかで見たことあるなあなんて思ったもんですから。」
「ふふ、お前に産婆さんの手伝いに知り合いがいるとは思えんな。エマの親戚とかかもしれんぞ。エマににてたんじゃないのか?」
「うーん、エマの顔とは違うと思うんですが・・・まあ、なんとも。」
「さあ、気持ちを切り替えるぞ。次はペリエの街だ。急ごう。」




