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ゼオン侯爵家

「旦那様、お茶をお持ちしました。」


「ジルか。入れ。」


執務室には書類が山積し一部は床にまで散乱している。

お茶を淹れたあと、

「ご多忙でいらっしゃいますね。片付けてよろしいでしょうか?」


床の書類を整える。


「ふふふ、ラベンダー畑やひまわり畑などと一緒に薬効の高いハーブを植えるように領民に推進してから、他国や他の領地との交流が増えているからな。そして、蒸留方法は画期的だ。誰でも使用できるよう手続きはしたが、まだ王国内に限定している。商人が勝手なことをしないように見張る必要もある。 ちょうど良いところに来たな。ここの売上高を計算してまとめてくれ。」


「他国というとエクア王国とですか?」


「うむ、ドルミカ王国とも海を隔てて国境を接してはいるが、あの国とは昔戦争となったこともあるし、物資のやりとりは、布など嗜好品と言われるものなら良いが、小麦やひまわりのような油、薬効の高いハーブ、そして蒸留方法などは漏らさないように注意が必要だ。その点エクア王国は、国王の妹君が嫁がれたこともあり交流しやすい。」


「なんだか外国って聞くと憧れます。いつか自分も行ってみたいと思います。」


「そうだな、お前はまだ若い。あと1年で見習いも終了だ。正式な侍従になれば、色々と連れて行ってやろう。これからどこにだっていけるさ。」


ノアからすでに今後について説明は受けていたものの領主から直々に来年の話をされたジルは感銘を受ける


「ありがとうございます。これからも精一杯頑張ります。」


王都に行けるかもしれない、ちゃんとした侯爵家の使用人となれば、伯爵家を訪れたって追い返されないはずだ。頑張ろうという気持ちがさらに強くなる。




「そういえば、あれから一年か。時々、エミリーはゼオンに戻ってきているのだろう?」


「はい、別荘のお部屋に住まわせていただきありがとうございます。治療院でも随分腕が良いと評判のようです。相変わらず、どこで知ったのと不思議に思う治療や処置をするのですが、概ね受け入れられているようです。最近は、お産も手伝うことが多くなってきてやり甲斐があると言ってました。女性同士受け入れもされやすいからと。どうも楽しそうです」


「ははは。想像できるな。」



「私の方にも報告がきている。ノアが時折様子を見に行っているようだからな。」


別荘では、今度は、魚のアラを使った肥料を考案したようだ。」


「え、肥料ですか?」


「そう、あまり肥料という考えがなかったが、最近は、ラベンダーの搾った後の残りやひまわり油を搾った後のものを肥料として使うようになっただろう?それだけでも画期的なんだが、今度は港で余ったアラを肥料にしようとしているようだ。エミリーは、何でも再利用したがるな。」




「本当に不思議だ。なんでそんな発想が出てくるのか、どうしてこう再利用したがるのか、ジル、お前たちはどういう教育を受けてきたんだ」


どうしようと思いながらも、


「特に姉は学校には通っていませんでした。家族や周囲にいた人に勉強は教えてもらっていました。ハーブについては、ハーブにとても詳しい庭師と3歳くらいから仲良くしていていつも一緒にいましたけど。昔から頭が良いとは褒められてましたね。」


全て本当である。ギルバートもわからないのである。そもそも何処かで学べるようなものではないのである。


「本当に、旦那様のおっしゃる通りで、すぐに、まだ使えるとか勿体無いとかいつも言っています。無論、私たち平民はなんでも大切にいつまでも使うのですが、姉の発想は全く違います。捨てるものを新たな違うものに作り直してしまうのです。」


ディランのところで、生ゴミにミミズを捕まえてきて肥料にしたときはびっくりしたなあと思い出す。今や、侯爵家の庭師のレッドがせっせとミミズで肥料を作っているのである。


皆目見当がつかないといった顔のジルを見て諦めた侯爵は


「まあ、謎だな。エミリーは、本当は医学部に行くと良いのかもしれんな。うちの侍医もエミリーの噂を聞いて驚いていた。」


と笑う。



「そういえば、最近エミリーは釣りが趣味だそうだぞ」


と侯爵が話すと、



「つ、釣りですか?それは、きぞ、女性としてやるのは駄目なやつでは」

目を丸くする。


「え、最近、ゼオンに帰ってくるときに、魚を持ってきてくれるのですが、てっきり買ったものと思っていたのですが、もしかして自分で釣ってきたものだったのですか・・」


「ジルにも内緒だったか。ははは、エミリーには悪いことをしたな」と侯爵が笑う。


「はあ、エマに怒られると思います。いつも、姉にお小言を言っていますから」


「ところでエミリーは結婚しないのか?平民なら、もう15歳、結婚してなくても誰かと結婚の約束くらいしているのが多いのではないか?」


「とんでもないです。絶対駄目です。」と猛反対する。


驚く侯爵に


「し、失礼しました。昔まだ両親が健在だった頃、いつかお嫁にきてと言われていて、相思相愛の人がいたんです。でも、両親が亡くなって色々あってこの話は立ち消えになったんです。でも、姉はまだその人を想い続けているのです。」


「なんと、そんな話があったのか。しかし、いまのエミリーを見ているとそんな風には見えんが・・・」


「いえ、心の中でずっと忘れずに想いつづけているようです。」


「まあ良い。エミリーも治療師として楽しそうだからな。まあ、変な男に絡まれないように注意させよう」


私がどうこう言わなくてもノアがかなりブロックしているようだがなと心の中で呟いた侯爵だった。





その夜、寝酒を飲みながら、ふと、ジルとの会話を思い出す。


そうか、エミリーにはそんな相手がいたんだな。事情はわからんが両親が亡くなったくらいで結婚を取りやめるとは情けない男だ、私ならそんな事はしないと思うアリストであった。


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