ノアの願い
治療院に行くと、すぐに、
「これはノア様」
と受付のローラが慌てて挨拶してくる。
「やあ、エミリーはいるかね?」
と尋ねるとあいにく、産気づいた人のところに行ってしまって不在とのこと、
「ふむ、ではベルグ院長はどうかね?」
と尋ねるとちょうど患者の列が途切れたところですからと診察室に案内される。
「これはノア様」
とベルグ院長が挨拶してくる。
「やあ、ベルグ院長、ひさしぶりだね。エミリーはどうかね?」
と尋ねる。
ベルグは、
「はい、ノア様から前もってお話がありましたので、彼女の提案したものはすべて通すようにしています。驚くようなものが多かったですが、その結果、合併症で亡くなるものが減っています。それに、外科の縫合の仕方を教えてもらい自分も上達してありがたいと思ってます。」
と笑って返事する。
「やはり、院長に彼女を任せてよかったよ。なぜ彼女が色々と考案できるのかはわからないが、それがゼオンにとってとても有益なことになるに違いない、これからもよろしく頼むよ」
と話すと
「お任せください。今や、彼女はペリエに必要な人材ではありますが、彼女をペリエのためだけに働いてもらうのは世の中のためにはならないと思っています。いつかは、またゼオンに戻られると思います。それまでの間に、エミリーさんにはのびのびとここで仕事をしてもらい、色々なアイデアを試してもらえればと思います。」
「ふむ、お前もそう思うか。私も、エミリーは、もうゼオンに欠くべきでない人材と思っている。
大事にしてくれ。」
「大丈夫です。港の者たちにもエミリーさんが提案したことを受け入れるようにつたえてあります。
この間も驚いたことがあったんです。最近、港でお腹を壊すものが一斉に続出したのですが、エミリーさんが、聞き取りをして、貝を食べたものがお腹を壊していると結論づけたのです。その上で、エミリーさんがこれは貝の中に毒素が含まれているからしばらく食べない方が良いと提案しました。
そして、貝を鼠取りに捕まったネズミに食べさせてネズミが死なないか見ていこうと提案したのです。
みんな疑心暗鬼だったんですが、試しにネズミに貝を食べさせてみたら、あっという間に死んでしまったんです。そのあと、定期的にネズミに貝を食べさせて様子を見ていたんです。そうしたら、しばらくするとネズミが死ななくなったのです。
そうしてから、また貝をたべるようになったらお腹を壊すものはなくなりました。
エミリーさんの助言を無視して、食べた奴らは酷い下痢と嘔吐で苦しんだり息ができなくなりそうになったものもいたのです。
エミリーさんは、貝毒と呼んでいました。季節によるから注意して時折ネズミで試した方が良いと提案してくれて、今や港では時折ネズミに貝を食べさせて試してから、貝を取るようにしています。それから、貝でお腹を壊すものはなくなりました。
漁師たちにもとても感謝されてます。」
「なんと、貝でね。しかもネズミときたか。本当に不思議だ。まあ、良い。皆に感謝されているのであれば何よりだ。
それから、くれぐれも変な男が手を出さないように注意してくれよ。」
今日は初産の患者のところに行ったので時間がかかるだろうと言われ、ノアはエミリーに会うのは諦めてゼオンへの帰途についたのであった。
ノアは思う。年齢差はある、しかしもし旦那様が、エミリーを後添えとされるか、せめて、愛妾として迎えてくだされば、旦那様は今より幸せな生活をお過ごしできるに違いない。
たしかにエミリーは、メガネもしているし、そばかすも多い、髪の毛も最近は伸びてきたが短めで、美人とは言いにくい。いや、きっときちんとお化粧をして髪の毛をきちんと整えればもっと美しくなるはずだ。
それに、今も、旦那様はエミリーが淹れてくれたお茶を飲む時やエミリーが来た時にあれほど優しげな微笑みをされるのだ。
旦那様のそばにエミリーがいて、その腕の中に旦那様の赤ちゃんがいる、そんな姿を想像するとノアは心温まる気持ちになるのだ。
そのためにも旦那様を説得しなくてはと思うノアであった。




