報告書
「若」
「オスカー、ご苦労だったな。」
使用人に燕尾服の襟を正してもらいながら、質問する。あれから、ずっとオスカーやショーンは極秘にあの周辺を探している。アーサーも精力的に好きでもない社交界に出ては情報収集に努めている。今日もこれからダンスパーティーである。
しかし、もう、事故からは3年半が経過していた。
「ダンスパーティーの方はいかがですか?」
「ゲルトランが怪しげなパーティーを開催しているという噂は耳にしているが、正直なところまだそこまでだな。あと、どうも外国の商店と取引しているらしいとも聞く。その話を聞くためには怪しい未亡人やご婦人方と時間を過ごすことになってしまう。それはそれで危険だからな、噂をたてられて婚約に持ち込まれてしまったら大変だ。そうでなくても、ワインと香水の匂いでうんざりというのに。」
顔をしかめながら話す。
オスカーが、笑いながら
「お疲れ様です。私の方も少しは進んでいます。報告書です。」
「ふむ、土砂崩れの上の部分の一部が削れていた。大学の先生をお連れするのが大変だったが、もしかするとここから石が落ちたのをきっかけに崩落したかもしれないとの見解だったと。ただ、証拠は何もないということか。つまり、逆に言えばそうすることで土砂崩れを起こすことも可能だったということだ。くそっ!あいつら。」
「落ち着いてください。それともうひとつ、気になることがあリます。
麓の村に尋ねたところ、あの事件の直後捜索隊がやってきたが、村人たちは、誰も御領主様がそんなことになって捜索されているとは知らなかったそうです。
むしろ、そうではなくて、子供を見なかったかと尋ねられたそうです。五日経ってから俺たちの加わった捜索隊で初めて御領主様が事故に遭われて不明の遺体を探していると知ったというのです」
「どういうことだ。」
「つまり、土砂崩れが起こって捜索隊が出たとする。そうしたら、普通は、御領主様が大変なんだ。お子様方が河に流されたかもしれないと、村人総出で河やその周辺を探すもんじゃないですか?
それなのに、探しにきた兵隊たちは、単に子供を見なかったかと探していたという。」
「つまり、領主の事故のことは知らせず、河に落ちたシャーロットとギルバートが生きていないか、遺体で見つからないかこっそり探していたということか。
つまり、それは、あいつらは河に落ちるまであの二人が生きていたことを知っていたということ…」
「そういうことです。つまり、あいつらが、生き残っていた子供達を河に突き落としたということじゃないかと思うのです。」
アーサーの唇から血が出ている、強く噛み締めたせいだ。手も強く握りすぎて血が出ている。
「若、落ち着いて!」
「これが、落ち着いていられるか!あの時の街道の兵隊たちが実はゲルトランの手先だったということだろう。殺してやる、あいつら全員殺してやる。」
「待ってください、証拠は何もないのです。落ち着いてください。それからもうひとつ。これは、あまり関係ないかもしれないのですが…」
「実は、その数日後、麓の村から姿を消した夫婦がいます。田舎に帰ると言って慌ただしく出て行ってしまったらしいです」
「それが、どうだというんだ?」
「仮の話です。もし、溺れていたどちらかをその村人が助けたとしたらどうなるかなと。殺されないように匿うために逃げたなーんてことがあればと思ったのです。」
「つまり二人が生きているということか?」
「いや、流石に二人はないんじゃないでしょうか?辛いことをいうようですがシャーロット様はお嬢様で泳げるなんてことはないだろうし、まして服を着たままだし。たしかパニエの一部も見つかったのでしょう。ただ、ギルバート様なら可能性があるのではないかと思ったんです。」
「で、どこの田舎なんだ?」
「そこは皆目見当がつかないらしいです。パン屋の手伝いをしていたってことぐらいまででした」
「そこからはまた八方塞がりってことか。」
わずかな情報に藁を掴む思いですがる自分がいる。でも、そんなことにも縋らなければとても生きていけない、新しい生活に気持ちを切り替えれば良いものの全くできないままにあと半年でもう4年になる。
父からは、会うたびに婚約と結婚をせっつかれ、いい加減、自分が決めた娘と結婚させるぞと言われている。
「若、私は若のお気持ちもよくわかります。ですが、そろそろ婚約を考えたほうが…」
「そういうおまえも結婚していないじゃないか」
「私は、若が結婚しなければ自分も結婚しないと言ってあります。逆に、若が結婚してくれなければ私も結婚できないですからね。」
「私に付き合う必要はないぞ」
「若が幸せになってくれるのを確認しないと無理です」
「結婚が私の幸せとは限らん。自分がシャーロット以外の女と幸せになるのは想像できないな」
オスカーがため息をつく。申し訳ないとは思うが、せめてゲルトランとその一味を逮捕して悪事を暴かなければとても前進できないのだとアーサーは自分に言い聞かせるのだった。




