ハーブガーデン
「そなたはハーブに随分詳しいようだな。なぜだ?」
「それは… 私どもはケントの出身です。父はあちらで熱心にハーブを栽培しておりましたので、私も詳しくなったのです。」
これは嘘ではない。父は領主として熱心にハーブ栽培を振興していた。
「そうか、ケントの出身とジルももうしていたな。よし、エミリー、気に入った。そなた、時折屋敷にこい。そして、庭師と一緒にハーブガーデンを整えてくれ。」
「私は庭師というわけでは」
「私は、将来的に、この地でまだはっきりしないが、ハーブをそだてて一つの産業にできないか考えている。うちの庭師はあまりハーブに詳しくない。一度試しにお前に頼んでみたい。」
「畏まりました。私ごときに大それたことができるとは思いませんが、尽力させていただきます。」
「そなた幾つだ?」
「12歳です。」
「ははは、こんなしっかりした12歳は初めてだ。王都の社交界にもいなさそうだぞ。まあ良い。明日から来るように。ジル、今日は楽しかった。残りはせっかく姉のところにきたんだ。ゆっくりしろ。パン屋はまた別の機会にしよう。ノアにはいっておく。」
「旦那様。ありがとうございます。よろしくお願い申し上げます。」
ロバートはそのまま出て行き、外で待っていた護衛と一緒に帰って行ったのであった。
翌日、エミリーがお屋敷に出向くと、話を聞いていたノアが庭に案内してくれた。
「ノア様、ご案内いただきありがとうございます。また、弟がいつもお世話になり本当にありがとうございます。」
「いやいや、おそらくジルに無理を言ったのは、旦那様でしょう。あれほど機嫌の良い旦那様を拝見したのは久しぶりの事です。視察がとても楽しかったようだ。また、カモミールティも気に入ったそうだよ。」
「恐れ入ります。お気持ちに沿えるように頑張ります。」
「さあ、こちらが庭師のレッドだ。」
「レッド、旦那様からの命令だ。ハーブガーデンをここにいるエミリーと一緒に作れと言われている。旦那様の気にいるような庭を作ると褒美をいただけるかもしれんぞ。ちゃんとエミリーのいうことに耳を傾けるんだぞ。」
「へえ。褒美をいただけるとなれば、頑張ります。エミリー、わしも市場であんたの噂は聞いたことがある。ハーブに詳しいってな。」
「レッドさん、ありがとうございます。私はケントの出身で、父もハーブ栽培をしていたので一緒に働いていました。それだけです。でも、こちらとは風土も少し違うので、試行錯誤は必要かもしれません。先輩であるレッドさんと相談してやっていければと思います。」
「なるほど。ケントの出身なんだな。でも、最近のケントのハーブの評判は良くねえよな。」
エミリーは顔を曇らせながら、
「はい、市場でもその話は耳にしました。質が下がってそれで値段も下がっていると。」
「どうやら、領主が変わったせいという噂だ。あんた、どんな領主か知っているのか?」
「いえ、私たちは、領主様が変わる前にこちらに移動してきておりますし、前の領主様にもお会いできるような身分ではありませんでしたから。」
「そりゃ、そうだ。」
ノアは、その話を小耳に挟みながら、二人に庭を任せて屋敷に戻って行ったのだった。
「レッドさん、まずお聞きしたいのは水やりです。お庭を見せていただくとどうも元気がない苗がいくつかあります。水やりはどうされていますか?」
「水はすごく気にしてたっぷりやっているさあ」
「おそらく、水のやりすぎのようです。水は、たっぷり、だけどしばらく間をあけて乾燥するくらいでまたあげるとハーブは良いのですよ。」
「え?そうなのかい?」
頷きながら、
「肥料はどうされていますか?」
「いや、特には何も。土の力があるだろ?」
「土の力も大切ですが、そちらのバラのような花はたくさん肥料をあげる必要があります。逆にあちらのハーブは不要です。」
「なるほど、種類によってそんなに違うんだなあ」
「旦那様に驚いていただけるような庭づくりを一緒に頑張りたいです。あと、肥料ですが、まずはミミズ探しから始めたいのです」
「ミミズ?そんな害虫をどうするんだ!芝生をあいつら穴ぼこだらけにするんだぞ」
「芝生にとっては目障りかもしれませんが、肥料作りには役に立つのです」
美咲の家では、ミミズコンポストで肥料を作ったり、魚の液肥をつくったりと母がオーガニックにこだわっていたのである。
今も、ディランの庭には、ミミズコンポストがある。ジル達には当初ものすごく嫌がられたわねと思う。
「まあ、とりあえずノア様にも言われてるし、お前さんの言う通りにやるから何でも言ってくれ・・」
こうやって、ゼオン侯爵家の庭づくりのお手伝いが開始されたのだった。




