カモミールティー
ディラン治療院のドアがチャリンと開く。
「ごめんなさい、今日はもう休診なんですよ。お急ぎですか? あら、ジル。どうして?お屋敷は?おやすみをいただいたの?」
振り向いたところにいるジルを見てエミリーはびっくりする。
「姉さん、ただいま、いや、今日はたまたまお屋敷の先輩と市場に買い物にきてそのついでで寄ったんだよ。」
「まあ、市場に。ごめんなさい。どうぞ、お入りください。狭くて申し訳ありませんが。すぐにお茶を用意します。ジル、ここよりは、お庭の方がまだ気持ち良いかもしれないわ。風も通るし。そちらにお通しして。」
「やあ、じゃあ、ジル、お言葉に甘えようか。」
とロバートが肩に手を回してくる。
「はい….先輩….」
キョロキョロと興味深く中をひとしきり見物したあと、裏庭に向かう。そこには、トーマスが作った椅子とテーブルがあり、庭を眺めながら休息できるようにしてあり、テーブルクロスもかかっていた。
「これは驚いた。なんて可憐な刺繍が施してあるテーブルクロスなんだ。なかなかこのレベルのものを買うのも大変だぞ。このところ、領地でも質の良い刺繍のテーブルクロスやナプキンが用意できるようになったなと感心していたんだが....」
「あ、姉が趣味で刺繍したものなのでそんな買ったものとか高いものとかではないんです。糸もお店で余った糸をもらってきたので無料ですし。」
「お待たせいたしました。市場に行かれたとなるとお疲れと存じましたので、カモミールティとクッキーをご用意させていただきました。お口にあうと良いのですが...」
カップもポットもみすぼらしいものだなと思いながら、一口飲むと
「なんだ、これは。うまい。こんなうまいカモミールティは飲んだことがないぞ。」
「まあ、ありがとうございます。ジルの姉でエミリーと申します。侯爵様にはこのようなところに足をお運びいただきありがとうございます。ジルをお屋敷で働かせていただいて感謝の念にたえません。ジルも誠心誠意、侯爵様にお仕えすると思います。どうか、よろしくお願い申し上げます。」
「ね、姉さん。」
「うふふ、ごめんなさい。でも、どうみても、高貴な方にしか見えないものですから。ノア様にはお会いしたことがありますから、ノア様より高貴な方と考えるとお一人しかいらっしゃらないのですもの。」
「ははは。そうか、身をやつすというのは難しいものだな。そういう意味では、そなたもジルも平民には見えないがな。」
「いえいえ、私たち二人は平民です。それももう両親も亡くなった孤児二人ですわ。」
「まあ、そういうことにしておこう。別に興味がないからね。それにしても、素晴らしい庭だ。なかなかこれだけの庭は用意できるものではないな。そして、この紅茶もうまいが、こちらのクッキーはなんだろう、清涼感溢れるな。」
「レモンの皮入りのクッキーとローズマリーの入ったクッキーです。あまり甘くなくて食べられるので、ディランのおやつとして用意しているものなのです。」
「ディラン、ああ、私の祖父が一緒に戦争に連れて行ったという治療師だな。」
「まあ、ディランにはそんなことが昔あったのですか。ディランは、あまり話してくれなくて。お聞かせいただきありがとうございます。」
「ここで50年前に海岸沿いにドルミカ国と戦争があったのだ。私が、小さい頃、領主だった祖父は、よくその時の大変だった話、そして、ディランという治療師が弓矢が飛ぶ中を兵士を担いで助けようとしたと言う話をしてくれたものだ。」
「まあ、そんなことが。とても私にはできそうもないですわ。今は、昔そんなことがあったとは思えないほど、平和なのですね。感謝しなければ。」
「ふむ、ノアは、確か、ジルの姉も治療師の見習いをしていると言っていたが、そなたがここで治療しているのか?」
「はい、ただ、私はまだ見習いですし、女でもあるので、必ずディランがいるときにしか治療はしないようにしております。学校には通わせていただいてあと2年で資格をいただける予定です。」
治療師の学校には、自分がかなり出資している。一度、成績を確認して見ると良いかもなと考える。




