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ゼオン侯爵2

ジルは、執事のノアから、旦那様が領地の視察の一環として市場をこっそり見学に行かれることを聞いてびっくりした。



「あの、私ごときが伺う事ではないかもしれませんが、侯爵様がそんなことをされるなんて初めて伺いました。大丈夫でしょうか?」



ノアは、ジルのこの丁寧な言葉使いが気に入っており、もしかするとこの子は、どこかの貴族の庶子とかかもしれないと最近思うようになってきている。顔立ちも非常に整っているし、使用人のお仕着せのスーツを着るとなんというか貴族のようにも見える立ち居振る舞いがあるのだ。


「良くはないのだがね。こっそり時折行かれるのだ。民の生活や市場を見ると経済状況が良く把握できるからとおっしゃってね。それで、今回、ジル、お前も同行させてやると仰っている。」



「え?私ですか?ですが、私では、護衛になりませんし、何かありましたら、むしろ足手まといになってご迷惑をおかけしてしまいます。」



ノアは笑いながら、


「大丈夫、護衛は何人も前後にこっそりいるから気にする必要はない。安心しなさい。単に平民で市場のこともわかっているお前を同行させたいだけなのだ。」



「畏まりました。では、同行させていただきます。旦那様がご満足される視察になりますよう尽力いたします。」



「いいか、口外無用だからね。家族にもこのことは話さないように。あくまでお前は、館の先輩と市場に買い物に出かけるのだ。」









姉上にも内緒なんて、生まれて初めての事だな。うー、緊張する。と思いながら、当日の朝を迎えた。


裏口で待っていると侯爵が裏口から、平民と言ってもきちんとした格好で現われた。うーん、どこかの商会の偉い人にしか見えないんだけど、館の先輩と言って通じるのかなあと悩むが、仕方ない。


「侯爵様」


「ここからは、私をロバートと呼びなさい。」


「え、ロバートですか?」


とびっくりして急に涙が出てきてしまう。


「え、おいおい、どうしたんだ。」



「申しわけございません。旦那様、ロバートと言うのは亡くなった父の名前だったものですから、つい思い出して涙が出てしまいました。」



「なんと、そうだったのか、私の名前は、アリスト ロバート ゼオンで、セカンドネームがロバートなんだよ。平気かね?」


「はい、ご迷惑をおかけしました。大丈夫です。」


「よし、では、馬に乗るから、お前も乗せてあげよう。」



「え?お待ちください。僕は歩いて。うわっ!」


あっという間に騎乗である。


「まあ、気にするな、お前のスピードに合わせていたら時間が勿体無いからな。」


「う、申しわけございません、ご迷惑をおかけしてしまって。」



「で?父親はいつ亡くなったんだ?」


「あ、はい、2年前に事故で亡くなりました。」


「事故で。そうか。もしかしてお前の足もその時なのか?」



ギクリとしながらそうは言っても嘘はつきにくい。


「はい、僕もその時の事故で足を怪我してしまい...」



「そうか...」


流石にこれ以上は聞きにくいと思って下さったのかそれ以上は尋ねられず、少しジルはホッとしたのだった。


何か思いついたのか侯爵は、


「よし!ここから飛ばすぞ!」


「え?護衛の方がまだ、うわっ!」



馬が早駆けを始める。こんなスピードで馬に乗るなんて、アーサー兄上が遠乗りに連れて行って下さって以来だ。なんだかとても楽しい。ジルは久しぶりの乗馬がとても嬉しくなった。


ロバートは、おもしろい子だ、全然怖がっていないし、むしろ乗馬に慣れているようにも見えると思いながら、市場の近くまで早駆けしたのだった。


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