ゼオンでの生活 2年後 シャーロット12歳
あの事件から、2年経過した。
ジルは、学校の先生に勧められ、侯爵家の屋敷で使用人見習いとして働けることとなった。
エマとトーマスの間には、可愛い男の子、マークが無事に生まれ、さらにエマが二人目を妊娠中である。
エミリーは、高齢のディランの家で過ごすようになり、希望していた治療師の学校に入学を許可され、ディラン治療院で仕事をしながら、週に3回学校にも通うようになっていた。
内容は、医学生だった美咲にとってはごく簡単なものだし、かなり間違った内容も多い。ハーブは、美咲にとってはよくわからない領域だが、逆にシャーロットの知識が補ってくれるため、困ることはなかった。
代筆業や刺繍の内職も続けており、代筆業のギルドでは、遅れてやってくる王都新聞を読むこともできる。
「騎士団の公開試合で、イーズス家嫡男のアーサー イーズス様が優勝された。社交界では、イーズス卿が今後誰と婚約するかで騒然としている。」と書かれている。
「アーサー、おめでとう。素晴らしいわ。そうね。もう2年経つんだもの。新しい婚約者ができて当然だわ。新しい婚約者と幸せになってもらいたい。」
ぎゅっと心の中で忘れな草の花畑でのアーサーを思い出す。もう、私のことは忘れているわね。 少し涙が滲みそうになりつつ再度仕事に戻る。
代筆業のギルドの帰りには、市場に寄る。
「エミリー!この間はありがとう。うちの子、すっかり元気になったよ。」
と八百屋のアンナが声をかけてくれる。
「デビッドは、気管が弱いみたいだからね。咳のある時には、胸に塗っておくと楽になるからね。あと部屋が乾燥しないように注意してね。」
エミリーは、ミント系のハーブやユーカリ油の混ざったクリームを作って渡している。
「エミリー、今度うちに食べにきてくれよ。この間の火傷の時の礼だ!」
食堂のおじさんが声をかけてくれる。
「ありがとう、また、ジルと行くわね。」
治療院で分け隔てなく治療をしているエミリーは、街の人に人気がある。
市場でハーブの問屋街にも寄る。
「エミリー、この間、新しいハーブが入荷したんだよ。使えるものか見てくれよ。」
「まあ、私も見せてもらえば、勉強になるから嬉しいわ。この間のユーカリの油にはびっくりしたもの。」
「エミリー!蜂蜜の蜜蝋が入荷したぞ。ディラン爺さんのところで使うなら安くするぜ。」
「ありがとう。助かるわ。そろそろ足りなくなるなと思っていたから」
問屋街でも人気者である。
いくつかもお店に立ち寄ったあと、ディラン治療院に戻る。
「おかえり、エミリー、代筆の仕事は多かったかの?」
「そんなには多くは無かったけど、家族宛の手紙が少し多かったの。家族宛の手紙って喜ばれるので楽しいわ。」
「ふむ、その表情から見ると、あまり王都新聞は楽しい記事では無かったようだね」
そんなに私表情に出ていたの?と少しどきりとする。
「そうでもないのよ。アーサー様が騎士の試合で優勝したと書かれていたの。とてもよいことだわ。」
「アーサー様は立派な方なんじゃのう。さあ、そろそろ午後の仕事を始めようかの」
ディラン治療院は、エミリーのアドバイスもあり、最近は盛況である。
そう、今の私は治療師の見習い、自分でできることをコツコツと頑張ろうと決心するエミリーだった。
「邪魔するよー」
「なんじゃ、リリアナ婆さんか、なんの用じゃ」
「婆さんは余計じゃ。じじいのくせして」
「リリアナさん、こんにちは。もしかしてですか?」
「そうさ、クレイのところの奥さんが産気づいたそうなんだ。手伝うんだろ」
「はい、頑張ります」
エマの出産の時に、赤ちゃんを取り上げてくれた産婆さんがリリアナさんである。前世は、超音波から、聴診器からなんでもあったが、ここではそうはいかない。産婆さんができることも限られており、出産は命がけである。前世の美咲の母は、看護師であり助産師でもあった。島で難しくない出産は母が手伝っていたのだ。しかし、ちょっとでもこれは難しいと思う患者は必ず本島に送っていた。
エミリーは、道具のないここでは何の役にも立てないからこそ、経験の多いリリアナさんから少しでも勉強できればと思い、同行させてくれるように頼んでいた。
「助手がいれば助かるさ。最近は腰も痛くなってきたしね。」
と言って手伝わせてくれる。無論、中身は正常出産であれば、自分でも理解はしているが、何事も経験なのだ。
「本当に、エミリーは熱心じゃのう、こんな婆さんから学ぶことなんかないじゃろうに。まあ、でも、女の治療師であるエミリーが出産を手伝ってくれれば心強いだろうしの。ここは、わしがやっておくから行っておいで」
「ありがとう、ディラン、行ってくるね」
10時間後に、可愛い赤ちゃんを胸に抱いた汗だくのクレイさんの奥さんはとても綺麗だった。
「いつもこうじゃと良いんだがのう。」
エミリーはよくわかる。そうでない出産、親子共に危険な状態になり亡くなる人だって沢山いるのだ。頷き、二人で帰途についたのだった。




