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ゼオンでの生活

エミリーは、毎日代筆業や刺繍の内職を行いながら、ディランの治療院のまずは徹底した清掃を行った。そして、枯れかけていたハーブの手入れをせっせと行った。今までシャーロットとしては清掃はしたことがなかったが、美咲としての記憶がある今、特に、この国の衛生観念はかなり美咲には辛いものがある。



ただ、昔読んだヨーロッパの歴史のように窓から排泄物を投げ捨てるわけではなく、トイレがあり、下水道が発達していたのが救いではある。


水は平民は、地下水を井戸から汲んで来るが、ケント領のように山からの地下水が豊富にあったところからきたトーマスやシャーロット達にとってはあまり水が美味しいとは言えないのが辛いところだった。石灰が多く含まれている硬水なのである。毎日、汲んだ水を一日おいて、布で漉してから飲むか、沸騰させてから飲まないといけない。もう、このまちの住民は慣れているので平気だが、いつも軟水の水ばかり飲んでいたシャーロット達は必ず湯沸ししなければならない。


前世でもヨーロッパは硬水で水道水もそのまま飲んだらお腹を壊すって言ってたものね。ケント領の水は軟水だったんだわ。


ただ、そうは言ってもやや海から近く温暖で広く拓けた丘陵地でもあり植物もよく育ってくれる。

フランスのプロヴァンス地方みたいなイメージなのかなあこの辺りはと王国の地図を見ながら思うエミリーである。


もともと植えてあったラベンダーやミント、ローズマリーを煮詰めて濾したものを清掃に使用すると治療室は清浄な香りに包まれ清潔感が溢れるようになってきた。


また、ハーブも新鮮なものを使用して調合するようになると、ディラン治療院は少しずつ患者さんが戻って来るようになってきた。


「おー、邪魔するぜ。爺さん。」


「何がじーさんじゃ。何の用だ。ニコラス」


「ひでえなあ、じーさん、ちょっと二日酔いが酷えから何か薬が欲しいと思ってきてやったんだよ。」



「あら、ニコラスさん、こんにちは。お酒の飲み過ぎには注意しないと。ほら。鼻がかなり赤いでしょ。お酒も影響しているかもよ。」



「エミリーもいたか。わかった、わかった、気をつけるよ。」



エミリーが消化を促すと言われているハーブを渡す。


「じゃあ、このハーブをお茶にして飲んでくださいね。後これとは別にこれを飲んでください。」


大きな瓶を渡す。


「なんだこれ?なんか甘ジョッパイけどなんかごくごく飲めるな。」


「お酒を飲みすぎると脱水になりますからね。単なる水よりも少し塩気と糖分があるものの方が体の吸収が良いんですよ。」


エミリーが作った沸かした水に砂糖と塩を混ぜたものを渡す。前世でのスポーツ飲料と同じである。


「へー、よくわからんが、まあなんとなくすっと染み渡る感じがするなあ。だるかったのが減った気がするわ。ありがとよ。じゃあ、ここにお代は置いとくぜ。エミリー、またな。」


「はーい、お大事になさってください。」



ニコラスは帰って行った。


「エミリー、お前の知識は不思議なものが多いのう。今まで習ったわしの知識とは全く異質のもんじゃ。なんでそんなことがわかるんじゃ。」



それは美咲の知識ですとギクリと思いながら、


「ディラン、よく私にもわからないけど、ケント領ではハーブも多くって領のお医者さまから教えてもらったことがたくさんあったからだと思うわ。」



「ケント領ねえ。確かにハーブや医療に使うハーブも作っているとは風の噂で聞いたことはあるが。まあ、ええじゃろ。

エミリー、もしお前さんがよければじゃが、このゼオンにある治療師の学院に通ってみるかの?まずは試験に受かることから始まるから先のことじゃがな。」



「治療師の学校! 私でも通えるのですか?」


「女で通ったのは見たことがないが、駄目という決まりもないようには思う。まあ、それまでは、ここで治療を見たり、図書館で勉強したりしながら過ごせば良いことじゃ。」



確かに、毎日働いていても手に入るお金はわずかで、ギルバートにきちんとした格好をさせて裁判所に行くようにするにはとても難しいことがこの数ヶ月、生活しながら働いてよくわかった。

王都は遠い上に悪人だってたくさんいるに違いない。

もっと自分たちの身分をきちんと証明できなければ。治療師という身分があれば、王都に行っても受け入れてもらいやすいかもしれない。


「ディラン、私頑張ります。頑張って治療師の資格をとるわ!」



「ほっほっほ。その意気じゃ。」


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