平民の男の子 チャーリー
翌日、平民の服に着替えた二人を見て、トーマスは
「うーん、どうしてもまだ上品というか高貴な感じがにじみ出ているっていうか。」
「そうね。特にお嬢様は髪を茶色に染めてても美しいというか。そうだ!」
「炭で、少し顔を汚して、そばかすのようにちょんちょんとつけてと、うん、かなりお嬢様の美が削れてきました。」
「エマ、お嬢様って呼ぶのはやめて。そうだ、私のことをチャーリーと呼んで。ギルバートのことは、ジルとしたらどうかしら。間違って呼んだように聞こえるからね。」
「わかりました。言葉使いに注意してください。従弟のチャーリーと、ジルと4人で田舎に帰るという設定ですよ。」
「あー、大丈夫さ!任せとくれ、エマ姉さん!」
「お嬢様・・・」
「チャーリーだってば!」
ギルバートは、残念だが、まだ足の麻痺が治らない。歩くのに足首が下がってしまうのでつまずいてしまう。杖がないと難しい。ギルバートは
「なんで、こんな!」
と涙声である。
「ジル、少しずつ治る人もいると聞くよ。もう少し様子を見よう。でも、ちゃんと足首を動かしておかないと変な形になってしまうと困るからな。兄さんと練習しような」
と励ます。
美咲は、前の世界だったら、プラスティックの装具をつけて患者さんたちは歩いていたわね。この前のような針金で作るかな。でも、針金だとずっとは痛いし。ブーツみたいならそれでも良いはず。
「チャーリー、何を作っているの?」
ジルが荷台の上で尋ねる。
「この間作った針金の草履があっただろう。それをもう一度作り直しているんだ。こうして直角にしたら靴べらみたいになるからね。それに布を裂いて巻きつけているんだ。そうすれば、ジルの足につければ、足の麻痺がまだ良くならない間でも歩けるから。」
そう、前世では、靴べら型装具って呼んでいたんだもんと心の中で美咲は思う。
「姉様」
「兄さん!」
「兄さん、なんでそんなにいろんなことができるの。まるで今までとは別人だ」
ぎくりとしながら、
「そうかな。もともと手先は器用だし考えるのも得意だったぞ」
と話す。
「そうだけど、崖から飛び降りた時もう自分は、姉さ、兄さんと死ぬんだ、天国に行くんだと思っていたんだ。ところが飛び込んだ後、兄さんは自分を抱きかかえて泳ぎ始めたんだよ。」
「大袈裟だな。泳いだんじゃなくて河の濁流に流されたのさ」
「えー、いや、あれは」
「おーい、二人ともそろそろ次の町に着くぞ。検問があるからな。」
検問では兵士たちが4人を見る。
「ふむ、夫婦二人とその従弟か。」
「はい、かわいそうに、この子たちの両親が流行病でなくなったので、祖父母のいる実家にみんなで戻ろうと決めたんでさ。」
とトーマスが答える。
「ふーん、幾つなんだ?名前は?」
「俺は8歳さ。チャーリー、こいつは6歳でジルっていうんだ」
とチャーリーは汚れた顔でニカッと笑う。
「ふーん、まあ良いだろう、気をつけていけよ。」
どうも、もうこの町の検問は普通の検問のようだ。油断はできないが、ホッとする。
「よし、今日はちゃんとしたものが食えるぞ。」
トーマスが嬉しそうだ。
「チャーリー、ジル、屋台でうまいものを買うからな。楽しみにしてくれ。」
食欲はあまりないが、トーマスの気持ちが嬉しい。
「トーマス、ありがとう。楽しみだよ。」
と返事をする。
買ってきてくれたのは、羊の香草焼きの串刺しだった。
「どう、うまいだろう。ちょっと香草がケント領と比べるとイマイチだがなぁ」
とトーマスが笑っている。
エマが、
「そうね。お肉は美味しいけど、ケント領でハーブを使っていた私たちにはちょっとフレッシュさが足りないわよね。ああ、昔あんたが焼いて入れたハーブ入りのパンが食べたいわあ。」
「そうだなあ、特に旦那様の庭で採れたハーブはその中でも全然レベルが違ったもんなあ。お前から少しだけもらったやつを使った時には感動したよ。」
「そりゃそうよ、館の庭のハーブはシャーロット様がそれは大切にお世話されていたから全然レベルが違うって言われていたんだから。」
シャーロットはそれを聞いてびっくりした。
「え、そうなのか。みんな褒めてくれるけどお世辞だと思っていたよ。」
「何をおっしゃるんですか。全然違いますから。そもそも」
「ハイハイ、ストップ、敬語になっているぞ。 さあ、そろそろ宿に向かうぞ。」