人面鳥パピィ
「おーいっ、こんにちは!」
「あら、珍しいわね。グリフォンがこの城を訪ねるなんて」
城の天辺で気持ちよく風を受けながら見張りをしていたらいきなり彼が現れたわ。本当は居眠りしてたんだけどね。
自己紹介します。私は人面鳥のパピィ。地獄ハイスクールでは主席の成績、あらゆる試験を合格しまくってきた天才ハーピーですわ。
「新しい郵便係だす。オラはグリフォンのグリフって、いうだす」
「あら、見かけはイカしてるのに訛りがひどいわね」
「あはは。オラは学校も出てねーし、字も読めないんだす。だから秘密の手紙を配達するのに、ちょーどいいらしいだすよ」
ふん、最低賃金で一生こき使われるタイプなのは分かったわ。頭の悪いやつには何を言っても無駄ね。私はグリフから手紙を受け取り、彼を追い払おうと思ったわ。
「……ちゃんとアンナ様に届けるだよ」
「私が持って行くから大丈夫よ」
「ダメに、決まってるだす。ハーピーは何でも掠めとるから、特に駄目だすよ」
「あら……失礼ね」
こんな常識外れな考えが未だにまかり通っているとは情けないわ。同じ半獸人でも人魚やケンタウロスは知名度が高くて人気者だったけどハーピーってだけで見下されるのは不愉快ね。
特に人魚には酷い目にあったわ。貝殻のブラジャーを誉めたら、私にプレゼントしてくれたのよ、シジミのブラジャーを。着けてみたわたしも、わたしだけど……笑い者にされたわ。
あ、ちなみに今はモコモコの羽毛がわたしのブラジャーよ。顔と胸の谷間が人族で、身体は鷲みたいな感じ。結構エロい体つきだと言われるわ。
誰に言われるかですって!?
尋問する気?
文通相手よ。古風で地味な女だと決めつけられるのは心外だわ……まあ、実際そうだけど。
仕方ないのでグリフを城に案内することにしたの。中庭に飛び込むと、グリフはくるりと着地して擬人化魔法を使ったわ。
片膝をついて、立ち上がると背の高いイカした人間の男に変化していたわ。ぴたりとしたセクシーな黒革の服を召していたわ。
厩舎から間抜けな顔をした骸骨兵士と猟犬が彼に骨としっぽを振って来たわ。物珍しいモノには興味津々ってところかしら。
『やあ、こんにちは。手前どもに御用ですかな?』
ワンワン!
ワンワン!
「やあ。オラは配達員のグリフだす。アンナ様にお届けものを持ってきただす。あんたがたが、アンナ様の部下の出来損ないだすな」
『でっ出来損な……なんですって?』
「い、いやあ、失礼しますた。ちまたで噂だったもんで、つい」
わたしのコメカミがピクピクと反応しました。この田舎ものは、ただのバカじゃない。本物の真正バカですわ。それも、ハイスクールでバカにしてきた連中と同じタイプの。
骸骨と猟犬も敵にまわしたようね。猟犬なんて、すっかり萎縮しちゃって可哀想だわ。
わたしも彼に対抗して擬人化魔法で応えたわ。田舎者には分からないかもしれないけど、ハイスクールで一番モテモテだった子が着ていた白いレースのワンピース姿よ。
「あらら……白いワンピースとは、驚いただす。懐かしいだすな」
「懐かしい?」
「前にオラの彼女も着ていただす。えへへへ。オラはこう見えてプレイボーイだすよ。でも、聞いてくれだす。その彼女、オラの親友と付き合ってたんだす」
「………まあ」
「だから、オラは彼女と親友を同時に無くしたんだす。辛い過去だす」
「それはそれは」
自慢……で間違いないわよね? 友達も彼女もいたっていう。
わたしには、そんなハレンチな思い出はひとつもないわ。嫌な思い出が甦ってきたけれど、わたしと猟犬は彼を城の回廊に案内したわ。
「あちゃ!? ウンコを踏んじまっただ」
「まあ、足元には気をつけてください」
よくやったわ、猟犬。簡単な隠匿魔法にも気が付かないなんて、とんだお間抜けさんね。
わたしは学生時代にプロムにも誘われていないわ。ひとりで行って初老の警備員と踊った自分が情けないわ。
「こちらの部屋でお待ちください。アンナ様を呼んでまいります」
ワンワン!
「分かっただす」
ずっと勉強ばかりしていたわ。だから成績はトップだった。家族や親戚にとって、わたしは自慢の娘だった。
でも、実技の時間でわたしが極度の近眼だと知れたとたん……全てが終わったわ。
遠くの見えない人面鳥は戦闘員にも施工にもなれない。いくら魔法の研究で好成績をとっても下級モンスターの魔力じゃ使いこなせない。
わたしがスクールカーストでも最下級の称号を得るのは簡単だったわ。勉強のしすぎで、一番大事な視力を失うなんて。なんでも、やり過ぎるのがわたしの悪いところね。
テーブルに腰掛けたグリフに、骸骨が何か持ってきたようね。口の狭いツボと、水の入った瓶だわ。それに藁のストロー。
『お待ちの間に、召し上がりください』
「ああ、骸骨兵士くんか。御苦労様」
彼はツボに手を入れようとするが、口が狭すぎて上手くいかなかった。水の入った瓶も同様で、持ち上げて逆さにしなければならなかった。
「ふふふっ、ぷぷ」
カタカタ、カタカタ。
ワンワン! ワンワン!
よくやったわ、骸骨。ストローの使い方も知らないなんて、笑える。
「ツボには、何が入ってるんだ?」
「手を突っ込んだら、分かるんじゃないかしら。ぷっ……ヒントは、その藁よ」
カタカタ。カタカタ。
ワンワン! ワンワン!
「あっははははは!!」
「……お、オラ、バカに…されてる……だか?」
『手前どもは、貴方をバカにはしておりませぬ。ヴァンパイアはゾンビをバカにはしませぬでしょう』
「お、オラは不愉快だす。みんなでオラを笑ってるのが、何だか不愉快だす!」
「まあ、とんだ誤解ですわ。バカなんて、誰か言いましたか?」
『いいえ、手前はグリフ殿が自分で言ったように聞こえましたが』
「あっはははははっ」
ワンワン! カタカタ。
ドアが開いて、アンナ様が入ってくる。寝起きのアンナ様も、とっても可愛いですのよ。
「……おはよう、みんな」
「お、オラは配達員のグリフだす。この小包をアンナ様に届けに来ただす」
アンナ様は小包を受け取って、丁寧にお礼を言った。わざわざ本人に渡さないでも、わたしが預かるつもりだったのに。
「これは、たぶんプレゼントだす。こういう荷物は本人に渡さないと意味がないんだす」
「そうよ、パピィちゃん。今日はあなたの誕生日でしょ?」
「……え!? ええっ? でも誕生日を祝ってくれるのは実家のばあさまだけですわ」
「いいえ。わたしから、あなたにプレゼントしたいから、グリフを呼んだの。彼の行動は大正解ね」
「オラ、こういう事には勘が働くだよ。でも、もう帰らしてもらうだよ。ここは嫌いだすよ」
グリフは席をたって、部屋を出ていったわ。わたしはプレゼントをあけて、中身を見た。人間が使っている眼鏡というモノだったわ。
「……アンナ様、わたし……わたし…何と言っていいか」
「それより、さっきから聞いていたら、みんな酷いんじゃない?」
アンナ様は腕組みして頬を膨らませた。怒ったアンナ様も可愛いですのよ。
「あなたたちは、自分がされてきたことを、彼にしたわね。それじゃ、あなたたちを苛めてきた連中と、同じじゃないかしら」
「………」
『………』
クゥーン。
涙が出ましたわ……ポロポロと。わたしは間違っていました。わたしが最低だと思っていた連中と同じになるなんて、絶対に嫌でした。アンナ様は本当に美しくて心の優しい方だと感じました。
『手前は……か、彼に謝って、参ります』
「待って、わたしもいくわっ」
ワンワン!
ワンワン!
わたしたちは、彼に心からお詫びを言ったわ。そうしたら、また呼んでくれれば、いつでも届けものをしてくれると言ってくれました。彼がバカで良かったですが、余計なことは言いませんでした。
「同じ鳥貴族のよしみだで、オラと友達にならねでか?」
「まあ、喜んでなるわ」
すべてはアンナ様のおかげですが、わたしにもリア充の友達が出来ました。
ええ……そこまでリア充でもありませんね。イケメンですけど田舎者ですから、リア獸の間違いですわ。