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殺人鬼アダムと狂人都市   作者: ウツロ
三章 B.J・シュタイナー
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二十五話 ハングドマン

 着替えにとりかかる前に、部屋の中をざっとみてまわる。特に注意を向けるのは、棚ちかくの天井と床だ。

 特段おかしなところはない。しかし、それで私の警戒心がとけるワケではない。


「ずいぶんと慎重なんだな」

「まあな。だが、それは君も同じだろう」


 ノラスコは部屋の入り口付近で、こちらの様子をうかがっている。

 どうも彼からは、私と一定の距離を保とうとする意思が感じられる。

 それでよい。こんな場所だ、簡単に人を信用するようでは長生きできないだろう。コイツにはすぐに死んでもらいたくない。ジョシュアを次の体にするのはいいとして、スペアを確保しておくに越したことはないからな。


 ボロ布を脱ぎ捨て、清潔な衣類に袖をとおす。

 着替え中は無防備だ。部屋のすみにいるノラスコを視界の端にとらえつつ、手早くすます。

 棚に乗せた銃は、すぐ掴めるようグリップをこちらに向けておく。そして、ショックバトンは前腕(肘から先)に重ねるようにして、隠し持つ。

 強い視線を感じるものの、ノラスコに動きはない。ショックバトンに気付く様子もみられない。

 ふん、可もなく不可もなくか。これ以上の警戒は相手によけいな重圧をかけるだけだろう。会話を繋げるのみに留めておくか。


「君は教師をやっていたそうだが」

「ああ」


「何を教えていたんだ?」

「……数学だ」


「趣味はあるかい?」

「格闘技を少しやっていた。それと、銃もだ」



 こうして心底どうでもよい問答をしつつ着替えをすますと、ノラスコと共に来た道をもどる。

 周囲に特段変化はない。左右に並ぶ扉も閉じたままだ。


「この扉は開かないのか?」

「あ、ああ。完全にロックされている」


 ロックされている、か。自らしたのか、勝手に閉まったのか。

 意図的か否かで、ずいぶん違うが、さて。


「中には何が?」

「あいつら……いや、このことはジョシュアから聞いてくれ」


 この話は終わりだ、とばかりにノラスコは手を振った。

 なるほど、言いづらい内容か。なんとなく予想はつくが。


 それにしても、ノラスコの口数は少ない。

 こちらが質問すれば答えるのだが、それ以上話をひろげることも、なにかを聞きだそうともしてこない。

 ふ~む、少しひっかかるな。ささいなことだが、なにかが胸にモヤを生む。


 このノラスコという男、初めて目にしたときは、ただオロオロするだけの頼りない印象であった。

 だが、時間とともに実像が、その印象から少しずつ乖離かいりしていくのだ。

 人の第一印象などアテにならない。

 真理ではあるが、それとはまた違う違和感を覚えるのだ。

 

 原因は何だ? 思いのほか落ち着いていることか?

 しかし、彼がこちらに恐れを抱いているのは間違いない。平静をよそおい虚勢をはっているのも事実だろう。何も変わってはいない。どこにひっかかりを覚えるというのだ。


 ……口数か?

 そうだ、口数の少なさがひっかかりの原因だ。

 虚勢をはるのは、自分を大きく見せたいからだ。弱みを隠し、おのれを守る。

 では、誰から守る?

 敵、そして、自分の地位を脅かす者だ。

 これまで三人でやってきた、そこに今回私が加わった。さらに人が増えると知れば、地位を守るため情報を引き出そうとするのではないか?

 だが、ノラスコは何かを尋ねてくることもなければ、実績を語り饒舌じょうぜつになることもない。そのチグハグさに違和感を覚えるのだ。


 ……コイツは何かを隠している。聞かれることを恐れている。

 私、あるいはジョシュアに対して――


 ガン!

 なにやら音がした。発生源はおそらく前方。

 思考を中断して耳に意識をかたむける。


 ガン! ガンガンガン!

 ふたたびの音。そこまで大きくはないが、確かになにかを打つ音がする。


「まさか」


 ノラスコが小さく呟いた。彼は焦りの表情を浮かべると、駆けだした。

 十字路を左に曲がっていく。私も彼の背を追い、左に曲がる。

 

「チクショウ、開いてやがる!」


 いくつも並ぶ扉のひとつが大きく開放され、どうやら打撃音はそこから漏れているようだった。


「マズイ、手伝ってくれ」


 ノラスコは腰が引けながらも、中へと飛び込んでいく。私も「いいぞ」と呟き、あとに続いた。


 ヒヤリとした空気に包まれた。これまでとは違い、あきらかに室温が低い。まるで冷蔵庫に入ったかのようだ。

 中をみわたす。

 十メートル四方ほどの空間に、ベッドが数十台、奥に固まるように並べられていた。

 しかも満床まんしょう。それらベッドの上には、やせ細り皮と骨だけとなったミイラが、身動きがとれぬよう手足を紐できつく結ばれていた。


 コイツは……


 それだけではない。天井からは比較的新しいと思える死体が、食肉解体施設のブタのように逆さにロープで吊られて並んでいるのだ。


 ガン! ガガン!


 吊られた死体のひとつが、ビクン、ビクンと体を震わせた。そのたび、頭部はベッドを打ち、鈍い音を奏でていく。


「やっぱり入り込んでやがった! すぐに殺さないと」


 ノラスコは鉄の棒を構えた。


「頼む、右に回ってくれ。俺が合図したら頭部を打ち抜いてくれ」

「ああ、分かった」


 拳銃を取り出すと、跳ねる死体の右へと向かう。

 死体は舌をデロリと伸ばしたまま、飛び出た眼球で私の動きを追ってくる。

 なるほど、やはり保育施設でみたものとよく似ている。

 だが、動いたから何だというのだ。生きているものこそ、四六時中動いてこちらを襲ってくるではないか。


「他のやつに移らないよう注意してくれ。確実にいる、と判断したとき引き金を……」


 ノラスコの言葉が左後方から聞こえる。その声は、少し遠い。

 ――遠い!?


 はっと背後を振り返る。

 扉の前に立つノラスコが見えた。彼の体は完全に部屋の外にある。


 しまった!!


「悪いな。先生」


 その言葉を残して、扉は音も立てず閉じていった。

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