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殺人鬼アダムと狂人都市   作者: ウツロ
二章 イザベラ・コンラート
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十二話 追跡

 松明をかざし、通路を突き進んでいく。

 でも、まっすぐじゃあない。ところどころ寄り道しながらの前進。

 そう、燃えそうな物には手当たりしだいに火をつけていってるの。


 目指す場所へは着実に近づいていると感じる。床に転がる死体の数が目に見えて増えていってるから。

 新しいもの、古いもの。原型を留めているもの、そうでないもの。

 単なるゴミにしか見えなかったりもするけど、とってもにぎやか。

 直接的な死因は分からない。でも、何らかのつながりは見て取れる。

 なかでも、片手を伸ばしたうつ伏せの死体からは、最後の力を振り絞って逃げようとしたのかな? なんて想像力が掻き立てられるの。


「キーキーキー」


 不快な声をだしながら逃げ惑うネズミたち。

 案の定彼らは引き返してきた。爆音の混乱からも立ち直って。

 でも、残念。わたしの放った炎が再び彼らを追い返している。



「あら? あれも燃えそう」


 また可燃物を見つけた。

 それは、死んでからかなり経過したと思われる乾燥しきったむくろ

 その、ホコリやら蜘蛛の巣やらにまみれた塊へと近づくと、松明の火を押し付ける。


 大きな炎が上がった。

 ホコリへと引火した炎は、徐々に勢いを増しながら全身へと広がっていった。


 大きなキャンドルね。乾燥しているだけあって、よく燃えるわ。

 もちろん、干からびたベテラン死体だけじゃない。まだまだ瑞々みずみずしいルーキー死体さんにも役どころはある。

 衣類よ。いまだ潤いを保った肉体は簡単には燃えたりしないけども、身につけている衣類は松明の燃料となるだろうから。

 死体から衣類を剥ぎ取ると、松明へと巻きつけていく。


 持っていた缶詰のキャンドルはとうに捨てた。

 今、わたしが握っている松明は、通路に転がった躯の一つで作ったもの。

 すなわち大腿骨。誰のものかは分からないけれど、人の骨では一番長くて大きいこの骨が松明の芯には最適じゃなくて?


 煌々こうこうと燃える松明を足元へと向ける。

 床を埋め尽くすネズミは炎にあぶられ、まるで絨毯がめくれるかのように揉みあい逃げ惑う。


「ふふふ、逃げ遅れると焼けちゃうわよ」


 足をもつれさせ、床をカラすべりするネズミのお尻に松明を寄せる。

 ギーという一際ひときわ大きな声、ケバつ茶色の体毛がチリリと丸まる。


 不思議なものね。あれだけいまいましいと思ったネズミだけれど、お尻を焦がして逃げてく様は、なんて可愛いのかしら!



 炎で追い立て、逃げたネズミどもの後をつける。

 細い道へ向かうもの、配管やダクトの隙間へと駆け込むものとチリヂリになってはいるものの、本流と思わしき一番大きな流れを追っていく。

 するとやがて、大通りよりも更に広い空間に出た。


 ロビー?

 まず目についたのは、天井から吊られた、とても大きなシャンデリアだった。

 人の背丈の倍はあるであろう金属製のフレームが、彼岸花ひがんばなのように幾本も上へと伸びる。

 それから正面奥の壁にあるのは、豪華な装飾がほどこされた五つの扉。

 その五つのうち三つは低い位置に等間隔で並び、残りの二つは部屋の両端にある階段から上へとのぼった高い位置にある。

 そんな扉の少し開いた隙間へと、ネズミどもは駆け込んでいく。


 もしかしたら、あそこが彼らの巣かしら?

 うん、多分そう。何の根拠もないのだけれど、確かにそう感じる。


 さて、そろそろ飼い主とご対面できるといいのだけれど。

 奥の扉へ向けて歩き始めた。



――――――



 歩き始めて十数歩、ちらりと視線を上に向けた。

 視界に大きく映ったのは、巨大なシャンデリア。

 いえ、シャンデリアだったものと言うべきね。

 なぜなら、おそらく過去には多数あったであろう電球はすでになく、また、光を乱反射させ美しく彩るはずの装飾品もまるでない。

 かすかに残ったガラスの破片が、ワイヤーに吊られフレームにひっかかっているのみだったから。

 なんとも見事に施設の荒廃ぶりを表しているよう。

 でも――


「ふふふ、怪しいわね」


 そう呟くと、シャンデリアの真下に入る直前、素早く後ろへと飛び退いた。

 目前を黒い何かが通過する。

 そしてそれが、ドガンという大きな音と振動を響かせる。


 シャンデリアよ。わたしの通過に合わせるように、頭上にあった巨大なシャンデリアが落下してきたの。

 やっぱりねえ。しかしまあ、お粗末な罠だこと。

 これを仕掛けた犯人は意外と綺麗好きなのかしら?


 あまりゴミが落ちていない床を見て、ため息をつく。

 破片、かたづけちゃダメじゃない。そんなの落ちてきますって教えているようなものよ。

 まあ、ガラスの破片なんかあったらよけて通っちゃうからだろうけど……それにしたって、ねぇ!?


 目を細める。落ちてきたシャンデリアのさらに横、壁際近くの床に目を凝らす。

 ん~、何か見えるわね。

 金属性のワイヤーで作られたと思わしき黒い輪が、いくつも設置されていることに気が付いた。

 罠ね。

 引っ掛けたら作動するのか、他の何かがトリガーとなり足をからめとるのかそれは分からないけど、ここにも誰かの悪意があることは間違いなさそう。


 罠を避けた先にも罠。

 意地悪だけど古典的ねえ。近代都市なんだからレーザーでもでてきそうなものなのに。

 でもまあ、助かるのも事実。

 未知の技術で施された罠なんて避けようがないもの。


 では、害獣退治にいくとしましょうか。

 壁際には決して近づかず、落ちてきたシャンデリアすれすれを進むと、無事五つの扉のうち、一つに辿り着いた。

 

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