タンザナイト 4
千夏は、同じ職場の青年のことをずっと想っていた。しかし、彼は彼なりの人生を選択していて、違う女性と結婚して家庭を持ち、今度は奥さんがおめでただという。
「私は…」
認めようとしなかったことに終止符を打つべきだろう。そして、千夏自身の人間性をもう少し良くしたいと思った。
「他の指輪を買うのはやめよう。タンザナイトがあるじゃない。いつの間にか浪費癖になっちゃってるわ」
それから、人に褒められたら素直に喜ぼう。いつも気づくと卑屈になってしまっていて、相手にも自分にも失礼だった。
なにか勉強しようかな、と思っていた。
仕事を退職して、ハローワークで失業保険をもらい、職業訓練でマイコンのコースをとった。
「えっ!えっ?もう先に進むの?!」
オタオタしている千夏に、隣の席の一也が助け船を出してくれた。
「ありがとう。今日は助かったわ」
「C言語とか、ある程度自学自習してないとついてけないと思うよ」
「でも…。やってみたかったのよ」
しょんぼりしていると、一也は千夏を書店に誘い、プログラム言語の入門書などを見繕ってくれた。
「ありがとう!頑張るわ」
「いいね。やる気がある」
「そんな…」
ふと、この時、どちらもこの相手にはなにか感じると思っていた。
「一也。いい人」
千夏は頑張ったが職業訓練は、あまりふるわなかった。
またお別れか。
クスッと微笑んで、職業訓練が終了した。
ハローワークで紹介してもらった仕事に就いた。
千夏は、恋をしていない期間も幸せだと感じた。一日一日があっという間に過ぎてゆく。
そして2年経ったある日、行きつけの喫茶店デル・ムンドで一也と偶然再会した。
一也はプログラマーの仕事をしているそうで、連絡先を教えてくれた。
それからちょくちょく会うようになって、冬のある日に告白された。
「これ、指輪…。あり?なんか似たようなのはめてんな?!」
「これは誕生石で自分で買ったのよ!」
一也からもらった白い紙の小箱を開けて、中の指輪ケースを開くと、なんてことだろう、自分の持っている指輪と同じものが入っていた。
「返してきて違うのをやろうか?」
「いや!これがいい!」
前から持っている方は、もうずいぶん出世してくすんでしまっていたが、それでもはずす気にはなれなかった。一也からもらった方は大事にとっておいて、時々出してみては、美しさを堪能した。
一也とゴールインした後、一也が仕事でぐんぐん出世した。
「あのね、タンザナイトには『成功』っていう石言葉があるのよ」
「それでか?でも、俺の実力もあるんだぞ」
「そうね」
千夏は実に幸せそうに微笑んだ。
タンザナイトの石の精霊は、いつも千夏のそばにいて、千夏を見守ってくれている。