8.魔法
「……ねぇ、向こうには魔法ってあるの?」
あれから数日後。私は毎日のように、海莉くんに向こうのことについて聞いていた。もちろん今日も。
「あぁ、もちろん。まず、魔法は大きく二つの括りに分けられる。一つは魔法陣を描いて使うもの、もう一つは頭で思い浮かべて使うものだ。通称、実用魔法とイメージ魔法とも言われる」
今日は、前から気になっていた魔法について聞いてみた。
「両方とも、私に使える?」
「まぁ、実用魔法は魔方陣さえ覚えれば。イメージ魔法は……今すぐは無理だな、うん。訓練場みたいな、耐久性の保障されてるところである程度練習しないとダメだ」
「じゃあ、魔方陣、教えて」
「なら、まずはよく使うのからいくか。とりあえず……【隠蔽】あたりか」
早速海莉くんが魔方陣を描き始めた。おぉ、かっこいい……!
「例えばこれが、【隠蔽】の魔方陣だ。多分結衣ならよく目にするだろうから、一番先に教えとく。……ちなみに、魔方陣は描き終わるだけでは発動しない。最後にこう、タップしてやるとちゃんと発動する。今はまだ書き終わっただけだから、この魔方陣は発動していない状態だな」
むう、覚えること多そうだなぁ……。でも、覚えさえすれば私にだって使えるんだから、頑張って覚えよう!
「またあとで、よく使うか目にするだろう魔方陣をいくつか描いてまとめた一覧でも渡すか。その方が分かりやすいよな?」
「うん、お願い」
一覧かぁ……。今からでもそれを見るのが楽しみ。
「明日の朝には出来ると思う。……あぁそうだ、表じゃ魔法は使えないから、気をつけろよ? 正確には、少ししか、だが」
……少しだとしても、表側で魔法って使えるんだ。
「……その理由は?」
「その説明をするには、魔法の原理から説明しなくてはいけないんだが……まぁ、簡単に言うと、魔法っていうものは、空気中に満ちている魔素を自分の魔素に変換して、その魔素を何らかの方法で実体化させるものだ。もともと自分が持つ魔力や生命力も変換できるが、魔力は回復に時間がかかるし、生命力は命を削ってしまうから、主に用いられるのは空気中の魔素だ。表世界じゃ、魔素が薄すぎる。だから、大きな魔法を沢山使うことはできない。魔力や生命力を使ったとしても、表世界だと変換の効率がかなり悪くなってしまう。……それこそ、魔力量の多い人は満タン状態でならできるかもしれないが……」
「……始めて会ったときに海莉くんが使ってたのは、【隠蔽】なの?」
「いや【隠蔽】は、それなりに魔素・魔力の消費量が多いからな。あの時使ったのは【透明化】と【遮音】だ。気配は消せないが、表側で使うには十分だな」
「二つ同時もできるんだ……」
ますます楽しみになってきた……!
「……じゃ、今日はもう寝るか。おやすみ、結衣」
「うん、おやすみ」
昼休みの時間、私はまた続きの話を聞いていた。もちろん、誰もいない奥まった部屋で。これも日課のようになりつつある。
「……そういえば、ケイの昔話はしたが、裏側の歴史についてはまだ話したことなかったな」
「確かに。ちょうどいいや、教えて」
「あぁ。……まぁ先に、最近の状況からだな。今では裏側の世界中で様々なことが統一されている。例えば言語は、表側の日本語に、だ」
「日本語……!?」
ここで日本語が出てくるなんて思ってもいなかった。この世界じゃ日本はそこまで影響力のある国じゃないから……そう思っていた。なんと、裏側じゃあ標準言語とは……。
「そこは、歴史にかなり関わってくるな。簡単に言えば、言語だって決まりごとだってバラバラで、表側のことを何も知らなかった裏側に、表側の、特に日本の文化をもたらして世界中の色々な物事を統一した人物がいたんだ」
海莉くんのそれなりに長い話を簡単にまとめると、昔、テイ・フェルトンという人物が、表側に繋がる扉を開くことに成功し、表側に倣ならって世界の色々なことを統一、最後には国を作り上げた……と、いうことらしい。
「……その国が、今のアリッシア王国。なんせ世界を統一した偉人が建国者だから、裏側で一番影響力があるのは、間違いなくアリッシアだ」
「じゃあ……そのアリッシアで起きた今回の事件は、かなり重大なことなんだね……」
「そういうことだ」
「……事件の裏にいる人物って、だいたいの見当はついてるの?」
「それは……」
海莉くんは何か、言葉を詰まらせた。説明に困っている様子だ。……でもなぜか、すぐに軽く警戒体勢になった。
「……誰だ?」
「え?」
私は全然気が付かなかった……。けれど確かに、ドアから伸びる影が。
「……結衣ちゃん! ……それに、海莉くんも。ここにいたんだね!」