52.ありがとう
カイリくんが皇帝になってから数週間後。私たちは特に変わらない日々を過ごしていた。
変わったところがあるとするなら、週末……。
「何か変わったこととかあった、レン?」
「いや、最近は平和そのものでね、特に何か異変は起きてないよ。……あっでも、何でもこの前から人気のお店があるらしいね。スレイン通りの中央辺りにあるって話だけど。行ってみたらどうかな、サナもついでに誘ってさ」
「面白そうだな、じゃあそうするか」
毎週末、私達は裏へ遊びに行くのが習慣になった。そして、レンが……。
「っていうか、ほんとに最初の一週間くらいの忙しさはどこへやら。ちょっと暇なくらいだよ」
「そんなになかったか? 国王の仕事は」
「うーん、今のところ上手く回ってるからね。どこか綻びが出来たらすぐ直す必要はあるけど」
国王になった、うん。説明するなら、先王であるシン・フォン・アリッシアが国民の信頼の低下もあって譲位、レンに王位は継承され、今に至る。まぁ、そうは言っても、そこまで大変というわけでもないらしい。それはいいことだと思うけどね。
「レンも来るか?」
「……いいのかい?」
「私はいいよ。カイリくんは?」
「もちろん。じゃ、サナも誘いに行くか」
その翌日。
「楽しかったー。昨日はありがとう」
「こちらこそ、実は暇してたから誘ってくれて嬉しかったよ。またどこか出掛けよう」
あのあと、私達は市街にある噂のお店に足を運び、少し並んで目当てのものを食べてきた。……すっごく美味かった……!
「……じゃ、俺達はもう帰るぞ。またな」
今週はここまで。帰る私達を、レンはわざわざ見送りに来てくれた。どうしても、【転移】すると時間が掛かっちゃうから早めに帰らなくちゃいけない。今もまだ昼前くらいだけど、多分帰る頃には夕方くらいになってる。
「うん、またね、カイリ!」
別れを告げ、【転移】を使い表へ戻った。
「ただいまー!」
「おかえり、二人とも。どうだった、楽しかった?」
狭間を抜けて家へ戻ると、お父さんが迎えてくれた。そう言えば、結局お父さんもこっちに戻って一緒に暮らすことになった。裏の小屋にいる意味もないし、とのこと。
「うん。裏で今流行ってるっていう、アル焼きの進化系フード食べてきたんだー。美味しかった!」
「レンとサナも誘ってな。国も上手く回ってるそうだ」
「そうか、それは良かったね。……宿題とかは終わってる?」
「あぁ、宿題なら金曜の内に全部。二人ともやってあるぞ」
「なら、このあと外食行かない? 二人が良かったら、だけど」
外食。お父さんが帰ってきてからも、色々と忙しかったり用事が入ったりして行けてなかった……。でも、今日なら行ける!
「行く!何だかんだ言って、忙しくて行けてなかったもんね。……やった~、久しぶりの外食だ!」
「俺も賛成だ。……いや、これは俺が付いていってもいいのか?」
「もちろん。何言ってるんだい、一応これでも家族扱いしてるんだから当たり前だろ? じゃ、準備出来たら早速行こうか」
少し支度してから、3人で出掛けることになった。
久しぶりの外食ということで向かったのは、近くにある大通りの、食べ放題系のしゃぶしゃぶ店。せっかくだから贅沢にいいものをじゃんじゃん食べたいよね、という理由で決まった。
「そう言えば、カイリくんはこれからも学校に通い続けるんだよね。……いつまで通うつもりなの?」
「そうだな、大体……まぁ、区切りもいいし中学卒業で帰ることになると思う。それからは、直接国を治めることになるだろうな」
じゃあ、あと2年くらいしかいないのかぁ……。ちょっと短いなぁ、残念。でも、こっちで暮らさなくなってもいつでも遊びに行けるから、大丈夫か。
「……で、カイリは婚約者決めないのかい?」
「な……。どうしたらそんな話が今出て来るんだよ……!? というか、この前もそんなこと聞いてただろ……!」
……珍しい、海莉くんがこんなに慌てるなんて……。レアだ、貴重だ。
「いやいや、あの時は誤魔化されてそのままだったから。それで? カイリだってこれから皇族として生きることになったんだから、法に則って25までに決めとかないといけないでしょ」
「確かにそうだが……わざわざお前が知る必要は……」
「うーん、教えてくれれば上手くいくように計らってあげようと思ったんだけどなぁ……?」
お父さんがいたずらに笑う。……なんだろう、海莉くんがお父さんに弄られてるようにしか見えない……。でも、もう少し口は出さないでおく。
「ぐぅ……。……時間をくれ、今は無理だ……」
「了解、じゃあ家に帰るまでは待っておくよ。……その代わり、しっかりたっぷり聞かせてよ?」
「わ、分かった。だから、今までの話はなし! それでいいだろ?」
「うん。…………さ、美味しいうちにどんどん食べてね。食べ放題だもの、沢山食べてこそだし」
お父さんが納得した(のかな……?)ことでこの話は終わった。既に鍋や食材は運ばれてきていて、今も湯気が上がっている。食べ放題とは言え時間制限はあるから、確かに食べないともったいないね。
ふと、頭の中で何かが浮かんできた。勝手に口が動く。
「……海莉くん」
「……なんだ?」
「ありがとう。あと、これからも短い間かもしれないけどよろしくね」
私の言葉を聞いた海莉くんは少し面食らったのか、しばらく放心状態になってたけど、笑って返事をくれた。
「……あぁ、こちらこそよろしく頼む。…………ありがとう」
「……最後何か言った?」
「……いや、何も言ってない。…………ほら、時間もあるし早く食べるか」
「うん!」
変哲のないわけじゃないけど、幸せな日常。これからも、こんな日々が続けばいいな。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
(一応、ここまで第一部のつもりです
もしかしたら第二部書く…かも)




