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4.過去

「色々と説明からさせて頂きますね」

 あの後、一旦リビングの部屋に行き、落ち着いてから、話し始めた。

「まず、アリッシア王国という国は、この世界には存在しません」

「え?」

 いきなり、衝撃的なことを言い出されて、思わず拍子抜けした声が出てしまった。とりあえず、話の続きを聞くことにする。

「今私達がいるこの世界の、裏側にある世界の国なのです。そして、貴方様はそのアリッシア王国の第二王女に値する立場にいる」

 もう一つの、世界……どこかで、その話を……。いや。それより第二王女というのが大事。自らの国を知らない王女なんてどこにいるというのか……あ、ここか。……でも、よく考えてみれば“値する立場にいる”ってだけで、本当は違うって言いたいんじゃ?

「……詳しく教えて」

「貴方様は、ご自分のお母様を知っていますか?」

「……ううん。何にも……」

「……それが、姫様です」

「……姫様?」

「はい。先王の息女で、現在王妃を務めている御方です。……私が貴方様の元へ参ったのも、姫様の命です」

「……でも……お父さんって暇そうにしてたような……国王なんてやってる感じじゃなかった気がする」

「その通りです。貴方様のお父様は、ケイという人物です」

 うん、名前は知ってる。でも、結局外から見てどういう人かは知らないかも。

「国王ではないんだよね?」

 カイリは頷いた。

「ええ。ケイについて、お話いたしましょう」


 ケイは、裏世界の出身でした。ただ、アリシアナ魔法学校を卒業してからは、表世界で暮らしていたのだそうです。しばらく経ってから、ある日一度、裏世界に戻ったと。その際、一人で勝手に王宮を抜け出していた姫様と出くわした。初めは、敵同士だと勘違いし、戦いもしたとのこと。ただ、敵ではないと分かってからは話している内にだんだんと仲良くなり……そのまま交際関係になったのだとか。

 しかし姫様は、先王陛下のお世継ぎとなられるお方を探し、婚姻を結ばなければなりませんでした。その条件は、魔法・剣の腕が十分にあること、そして貴族であること。ケイは, かなりの魔力の持ち主であり、世界一と言っても過言ではない魔法の使い手で、また、剣の腕も王国騎士団の精鋭に比べるまでもなく強い。それに加え、あの人は……とある偉大な一族の子孫でもある。……ただ王宮の者には、所詮は庶民の出と言われ「認められぬ」と返されるのが二人とも、目に見えていた。だからこそ、正式な婚姻は諦めざるを得なかったのです。

 それでも、交際そのものはやめなかった。姫様は何度も王宮を抜け出し、ケイと落ち合っていたと言います。もちろん、抜け出していたのは陛下に見つかり、何度も外出禁止の罰を受けたそうですが、行先については決して言わなかったのだとか。なんだかんだ言って、このお二人の関係は壊れはしなかったのです。

 ですが、二人の間に貴方様が産まれて、大変なことになりました。貴方様はケイとの子。決して、ケイの存在が露見してしまってはならない。しかし、国にいればいずれ見つかってしまう。そこで姫様は、思い切って国を出させることにしました。もちろん、姫様自身が国を出ることは許されません。ですから貴方様とケイを、別の国……この「日本」へと向かわせることにしたのです。

 姫様はその後、別の一等爵家の長男と、婚約を結びました。現在の国王は、その貴族が務めています。

 それ以降、ケイと貴方様はこの家で暮らしていた。きっと……ケイは、幼い貴方様に残っていた少しの記憶を封じていたのでしょう、か弱い貴方様が、周りに狙われぬよう。裏にもう一つの世界があるという事実を封じ、この家で産まれ育ったという、偽りの記憶を植え付ける……そのくらいなら、ケイには容易いことだったでしょう。

 そんな訳で、貴方様はケイに育てられたと思います。


「しかし……ケイは、姿を消しました。裏側に戻った際、行方不明になったのです。何故なのか、その理由はわかっていません。命があることは確かなのですが……。貴方様もそのことは知っているはずです」

「うん。確かにお父さんは、私が小六のときから留守にしてるよ。理由は、詳しくは知らないけど……」

「はい。それは我々の方でも把握できていません……」

 ……カイリの目はほんの少しだけ、泳いでいる。これは……嘘だ、きっと。何かを、カイリは知ってるんだ。けど今は、気にしないことにしておく。

 少し間をおいてから、再び話し始めた。

「もう一つ。国民には……いえ、王宮の者にさえ貴方様の存在は知られていません。あなた様は事実上、存在していないことになっています。裏では、王家の血を引いていながら、どこにも貴方様のことは記されていない。唯一知っている者も、口を固くしています。……記録上、といえばいいでしょうか。情報として、残されてはいないのです」

「まぁ、そりゃあそうだよね。実際、私が生まれ育ったのはほとんどこっちなんだし……」

 区切りもいいところで、一番気になっていた本題を持ち出す。

「……それで。あなたは何のために、何をしにここに来たの?」

「おっと。すみません、大事なところを忘れていました……。私は……そして姫様は、ひとまず貴方様を迎えに行くことにしたのです」

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