47.その後
「……ん……。……ふわぁぁ……」
「……起きたか」
「……んえ? …………カイリくん……? ……あれ、私……確か……」
目の前に見えるのはカイリくんの顔。ついさっき、確かに下校中だったはずなのに、なんだか凄く時間が経っているように感じられる。
「あのあとの話は全部今から説明する。とりあえず、目は覚めたか?」
「……うん。学校から帰ってる途中に……そっか、あのとき……」
周りがぐらりと揺れて、視界が塞がって……気を失って、それで……。あのとき、誘拐に近いことが起きたんだろうなぁ、きっと。
「ユイは帝国の者に連れ去られたんだ。……ごめんな、ユイ。今から、ずっと隠してたことを話す」
頑なに語ろうとしなかった、カイリくんの正体のことか。……それが、今回のことに何か関係が……?
「俺の本名は、カイリ・フォン・ディラシア。俺は元々、帝国の皇太子だったんだ。今は……どうなのか自分でも分かっていない。ただ、ついこの前までは、帝国とは関係ない人物として、生きていた」
帝国……確か、昔アリッシアと戦争をした国。皇太子だったなら、なんで……昔のこととは言え敵国の、しかも王家の従者になどなったんだろう?
「でも、なんで……」
「俺は、帝国の仕組みを嫌って家出……いや、国を出た。……姫様の元にいたのは、ただ単に行くあてがなかったからだ。昔に、世界会議の会場でレンと出会ったことがあった。それを思い出して、レンの元へ向かった……。そしたら、姫様が内緒で国籍と、働き先、下宿先まで与えてくれた。……恩人なんだ」
そんな過去があったのか……色々と、辻褄が合う。レンと旧友だって言ってたことも、国に詳しかったり、とても強かったりすることも。全てこの事実に繋がってる。
「そのとき、身分は明かしてたの?」
「いや、流石に他の者には明かさなかった。レンと、姫様だけには話した。全て、受け入れてくれた……」
一呼吸おいて、続けた。
「話してなかったと思うが……帝国は世襲制だ。そして、代々受け継がれてきた血筋は、龍の一族。帝国を治めるのは、龍人と呼ばれる種族だけ。……最強の種族たる龍人、適うものなし。一に一万、十万で向かおうが、傷一つ付けられず。……そう呼ばれたこともあるくらい、その力は強大だ」
「……それで、あんなに強かったんだ」
「あぁ、そうだ。それで……この前の話をしよう。あのとき、何が起こったのか」
ここからが本題。私はあのあと、どうなっていたんだろう。さっきもの凄く、身体が気だるかった。何か、理由があるはずだし……。
「帝国の精鋭部隊、名をディリアという……その中の二人が、わざと魔震を起こしてこちらへ転移、そして二人を昏倒させ、再び転移し帝国へ連れ去った。そして、残された俺は一人、帝国の王城へと侵入し、捕らえられていた二人を救出した。簡単に言えば、それだけだ。……救出時に、ケイに助けられはしたが……」
「……お父さん、いたの?」
「あぁ。姫様が呼んで、フウリと闘っていた俺の元へ助けに来た。……今、隣の部屋にいる」
隣に……お父さんが。……会いたい。もう、一年近く会っていないからか、流石に恋しい。だけど……。
「……ごめん、続けて。話が終わってから、会うから」
「分かった。同じく捕らわれていた、姫様と国王のシンを助けて、今はケイの住んでいた小屋で皆、休んでいる状態だ。問題は……帝国と俺のこれからについてだ」
「もしかして……さっき言ってた、戦ってたフウリって人が何か?」
「あぁ。あいつは俺の実の父……帝国を治める皇帝だ。だが、俺と戦い、今はケイに魔力を奪われたまま、昏睡状態にある。帝国には、このことはまだ知られていない」
そうか。フウリという皇帝が倒れ、普通ならその跡を継ぐのはカイリくんだ。しかし、カイリくんは皇族でありながら一度国を出た過去があり、そしてフウリを倒した一人でもある……。公表はしなくてはいけないのだろうが、そうすれば帝国民は、貴族……いや、確か領主は納得しない可能性が高い。認められたとして、カイリくんには私に付いてきて入った表の学校がある。それに、アリッシアの方にはどう話せばいいのか。
なるほど、確かに問題は山積みだ。……それにしても、親である人物を自分の手で倒そうとしたのか……やっぱり凄いなぁ、カイリくん……。
「……どうするかは、もう決めてるの?」
「まぁ、大体は。上手くいくかは分からないが……俺が今できるだけの行動だとは考えている。……まず、帝国の君主、帝位自体は俺が継ぐ。まだ国を治めるには早いと言い、表の学校へ留学するという処置を取る。そしてその間、政治そのものは他の者に任せる。……ケイに提案してもらった。中々いい案だと思う」
「うん、私も賛成。そこまで今と変わらず、って感じだし」
「ただ、一つ問題があって……」
「問題?」
今聞いた限りでは、何事もなく上手くいきそうだと思ったんだけど……?
「帝位を継がなければ始まらないんだが、そこで俺を帝国皇家の者であると認めさせないといけない。それが、一番の問題だ」
「……龍人であることを証明すれば終わりじゃない? 種族としての特徴を示せば……」
「その通りだ。だが、龍人の特徴である一部の鱗と翼、尾を身体に現す……"龍化"というんだが、俺はまだ、未熟だからかそれが出来ない。即ち、皆に証明ができない……」
「……大丈夫だよ。カイリくんなら、できるよ」
……根拠は何もないけど。それでも、いける。そんな気がした。
「…………そう、だよな……始める前から出来ないかもしれないだなんて、諦めにも程があるよな。……ありがとな、ユイ。やってみるよ」
「いつくらいに実行かは決まってる?」
「明後日だ。明日の夜、帝国へ飛ぶ。明後日の朝には帝国の王城に着くはずだ」
つまり、今日は自由時間か。もちろん、明日の準備も必要かもしれないけど……今はおいといて。
「了解。……それじゃあ、話はここまで。隣の部屋だよね?」
「あぁ、そうだ。行って来るといい、多分ユイのことを待ってるから」
私は隣の部屋にいるという、お父さんに会いに行った。




