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44.帝国

「フウリ……昔に縁は切った、だが……一つ、交渉だ。もし、今の帝国の状態を変えるつもりがあるのなら、続けて父上に国を治めてもらいたい。俺もここに戻って暮らすとは限らないが、何週間かに一度くらいなら戻ってくるし、復縁もする。……ただしそのつもりがないのなら、俺が玉座に付き一からこの国を作り変える。その場合は縁を切ったまま、王城から出てどこかへいってもらおう」

 膝を付いたままのフウリに、俺はそう言った。これは、前から考えていた、交渉。フウリの目的は、俺を帝国へ引き戻すことと、支配の続行。なら、それを天秤にかけてやればいい。

「今の状態を、変える……? 何処を変える必要がある。何も今のままでも国は成り立っているではないか」

「……確かに成り立っている。だが、他国との交流を世界会議以外にせず、鎖国に近い状態。そして、領主が領地を好きにしている現状。俺は、そんなものを一から変えるべきだと考えている」


 世界会議という、年に一度開かれ、世界中の国々の代表が集まり、国の現状やその年に起こりうる災害などの対策について話し合う会議がある。帝国は、その会議には毎年出席しているものの、それ以外の国単位の貿易や文化交流といった、他国との交流をほとんど行っていない。それでは、いつか世界に遅れを取るし、もし帝国では対処できない大きな災害が発生した場合、対応ができないだろう。

 また、帝国は基本的に、皇帝がほとんど全ての権限を持っており、独裁状態に近い。……それだけならばまだ許せる。皇帝の下に領主という役職があるのだが、善意で領地を治める領主は極少数。私利私欲で動き、力で領民たちを抑えている者がほとんどなのが実情だ。そんな領主を縛る法はそれほど存在しない。その領地に住む人々は、日々苦しい日々を送っていると聞く。他の領へ移住しようにも、ある程度の資源を蓄えなくてはそれもできない。

 そして、フウリはその現状をよしとしている。見て見ぬ振りをするわけでもなく、当たり前のことのように扱っていた。前に、民や善良な領主が反逆を起こそうとしたこともあった。結果としては、フウリ自らその圧倒的な力で反逆者を虐殺し、事は収まった。そのせいもあって、国民たちの顔は、ずっと暗い。

 俺は小さな頃から、そんな国の闇を見てしまっていた。教育係からは、国の明るい、いいところだけを教えられていたが、こっそり一人で外へ抜け出した際、国民たちの本当の思いを聞いてしまっていたのだ。こんな国にいていられるか、そう思って5歳の時、家出ならぬ国出をし、アリッシアへと辿り着いた過去がある。

 アリッシアにいるうちにずっと考えていた。フウリが今のまま玉座に付いている限り、帝国は変わらない。ならば、代わりに俺が玉座に付いてやる。そして、この国を自分の手で変えるのだ、と。

 ――今が、そのときだ。


「ふ……ふははははっ。そうか、なるほどな。お前がここを出た理由が、国と政治だったとは。だが、何かお前は勘違いをしているようだ。…………何を勝った気でいる? 我はまだ倒れておらぬぞ」

「何を……もう既に、戦う力はなくなっているだろう? そんな風に、膝まで付いておきながら何を言っている……」

 先程アルジェが放った輝きと、甦った龍の力で、フウリにはもう戦えるだけの力を失っていると、そう思っていた。いや、実際そのはずだ。あの力に対抗できる龍人は、今は俺しかいないはずだ。

 そのはずなのに……フウリはなぜか、立ち上がり、転がっていたレイン・グローリエを手に取った。今はまだ、少しよろめいているが……何だか、嫌な予感がする。このままにすれば、何かマズいことになる。

「喰いつくせ……グローリエ。我が力を全て捧げ、故にその力を我に授けよ」

 式句だと……?! 口に出したのは、驚きで隙を誘うためか。だがこれは、グローリエの真髄ではない。一歩手前の、深層。それでも……一度真髄解放を使ったアルジェは、疲れてしまっている。これでは、こちらが圧倒的に不利。

「深層、放出!」

 グローリエからフウリへと、膨大な力が流れ込む。あれは単純な力だが、今のフウリにそれを与えてしまえばもう、俺に勝機はほとんどない。

『ここまで、か……。すまない、アルジェ。俺には、出来なかった……』

『いえ……カイリはここまでよくやりました。あとは、やってくれるでしょう』

『そんなこと、一体誰が……』

 俺が諦めかけ、フウリがこちらへ剣を振りかぶった、そのときだった。

 一瞬の閃光。思わず眩しさに瞼を閉じる。そして、魔震が起こった。目を開ければ、俺とフウリの間に、人影があった。それは、振りかぶられた剣を手で受け止め、跳ね返した。

「ギリギリ間に合ったようだ、良かった。……さてと。確かフウリと言ったかな。美那と結衣をこんな風にしたこと、僕は許せないね」

 ――そこにいたのは、ケイ、だった。

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