42.親子
5人のうちの一人の下へ行き、そいつだけ【拘束】を弱めてやる。それでも、ギリギリ話せるくらいではあるが。
「さて。お前はディリアの頭だろう? ならば、この地下のことも知っているな」
トップの、確か風神速のナギと言ったか。ディリアの頭を張るこいつなら、何か知っているかもしれない。
「……あぁ、知っているとも。だが、貴様などに教えてやる義理はない。国を捨てた愚者よ」
「そう言うか。…………別に教えてくれなくても、無理やり記憶でも貰うから問題ない」
そう言ってから、ナギを対象に一つ、魔方陣を描き発動させた。すると、いきなりナギが苦しみだした。この反応ももちろん想定内。これは俺がまだここにいた頃に開発した、【奪取】という実用魔法だ。生命力や魔力、そして今のように記憶を奪うことが出来る。制限として、近くで対象を拘束しておく必要があるが、その分、魔素・魔力の消費がほとんどない。
ナギはなんとなくだが、いくら苦しめても情報は吐かない人物に感じられたのだ。それなら無駄に時間を使うより、この方がよっぽど手っ取り早い。
記憶だけを奪い、念入りに確認していく。……見つけた。どうやらユイは既に、拘束状態にあるようだ。レイラの方は、ただ昏倒させ幽閉しているだけらしい。この様子だと、やはりあいつは、ユイから……力を。
急がなくては。フウリが来るのは……恐らく、ディリアから連絡されたのはつい直前。まだ、こちらへ来るのは時間が掛かるだろう。
とにかく、先を急ごう。ユイはこのフロアのどこかに幽閉、拘束されているはずだ。もう一度気配を探るも、なぜか先程は感じられていたユイの気配がなくなった。かと言って、どこかへ移動したわけでもなさそうだ。誰かが……俺に気付いて、【遮断】をかけたか。なら、先にレイラを助けておくことにしよう。レイラの気配なら、変わらず察知できる。ユイとは別の部屋にいるようだが……。こっちか。
気配のする方へ向かって行くと、通路の付き当たりに部屋があった。この中に、確かにレイラの気配がする。
まずは周囲に、【隠蔽】【遮音】【障壁】を展開。一応、周りに敵がいたら面倒だからな。そして、部屋に向かって呼びかける。
「レイラ、いるか? 俺だ、カイリだ」
「……カイリ?! なんでここに? ……もしかして、カイリも……?」
恐れるような言い方をしているが、これは勘違いか。誤解は先に解いておこう。
「勘違いしているようだが、俺は自力でここまで来た。ユイの場所が分からないんだ、知ってるか?」
「うん、知ってるよ! でも、ここから出ないと案内できないや。どこら辺、って言うのしか知らないから」
「少し待っててくれ、外からなら解錠できそうだ」
この扉に使われていた鍵は、それなりに簡易的だが中からは絶対に開かない類のものだ。外からなら簡単に解錠できる。……完了。
「よし、開いたぞ」
「ありがと、カイリ。……ユイちゃんの居場所だよね? こっち、付いてきて」
「待て、その先は範囲外だ……なるべく音を立てないよう、飛んでいくぞ」
今いる場所は、先程俺が付与した魔法があるので例え大声で叫んでも大丈夫だが、その範囲外ともなると、効果は及ばなくなる。この場所で敵に色々とバレるのは避けたい。レイラもそれは理解しているはずだ。
「了解。一応【隠蔽】は掛けておくね」
【飛行】でレイラのあとを追うと、ひとまわり大きな部屋へ辿り着いた。近くにくると分かるが、この部屋には【遮断】が掛かっている。気配も魔力も、遮断されてしまって感じ取れない。が、ここで間違いないだろう。鍵は掛かっていないようだが……?
レイラを視線で下がらせて、入らぬよう指示してから、扉を開け部屋へ入る。部屋の奥は、病院の隔離された部屋のようにガラスと【障壁】によって仕切られており、その中には確かにユイが魔鎖に繋がれたまま台に横たわっていた。……あの魔鎖は、あの時の。
「ふむ……遅かったな」
そう言葉が発せられて初めて、部屋の奥に人影があったことに気が付いた。背中を見せたままで、顔は見えないが……あいつだ。だが、なぜかすぐには攻撃を仕掛けてこない。
「……待ち伏せなら、すぐに攻撃すればいいものを。なぜ攻撃しない」
「我は不意打ちなど趣味ではないのでな。それより……カイリよ、よく帰ってきた」
……その名を、フウリ・フォン・ディラシア。現在、ディラシア帝国を治める皇帝。そして、幼い頃はこの国の皇太子だった俺の、今は縁を切った実の父親……。
対峙するだけで、足の竦んだあの時とは違う。確かな自らの成長を感じながら、堂々宣言する。
「帰って来てなどいない。……俺はもう、ここの人間ではなくなった。俺にとってお前は他国の統治者、ただそれだけだ」




