38.クレセント城侵入
「やけに威勢がいいですね……。では、行かせてもらいますよっ!」
またしても魔素弾が飛んできたが、この程度の攻撃、不意打ちでもなければ当たるはずもない。サッと軽くかわす。
「まだまだ!」
また何十発か、魔素弾を撃ってきたが、全て俺に当たることはない。……やはり、弱い。訓練前のユイならまだ苦戦したかもしれないが、恐らく今のユイでも少し頑張れば勝てるだろう。
「っく……!」
「これで終わりか? 拍子抜けだな。ならば、こちらからも撃たせてもらうぞ」
軽く、エツと同系統の魔素弾を狙って撃つ。その数、たったの5発。
「……なっ?!」
同系統ではあるが、全く違う。まず速度、これは先程撃たれたものの5倍ほど。次に威力、先程の10倍。普通の人間なら、即死だ。だが、今回はあえてそうしない。エツに【防御】の上位互換、【身体強化:守護】を掛ける。遊んでやる暇はないとは言ったが、相手から情報を聞き出さないとは言っていない。
魔素弾が全て命中した。初弾に続いて一発ずつ、追撃をかけるようにして当たっていく。全ての魔素弾が消えたとき、エツが墜落して落下してきた。見えないが確かにそこにある床に打ち付けられ、苦痛に声を上げる。
「なぜ……わざと生かすのですか……遊ばないと……言っていたはずでは……!」
「あぁ、遊んでいない。ただ、いくらか聞きたいことがあるのでな」
そう言って俺は、エツの胸倉を手荒く掴み、持ち上げる。
「あいつは、フウリは俺の転移に対して警戒態勢を敷いているか?」
情報を吐くまで俺が逃がしも殺しもしないことに気付き諦めたのか、素直に話し始めた。
「……はい。全ての道に若い騎士を配置し、熟練の者を待機させているはずです」
そうなると……若いやつが見つけたら報告、そこに熟練が向かう、といったところか。ますます隠密行動が必要そうだな。
「……ユイとレイラ、それに姫様……ミーナ姫の居場所は」
「それは……城内でもトップシークレットで、私は知りません。知っているのは、それこそ陛下とハヤト殿くらいで……」
「……聞く事は聞いた、お前は用済みだ」
「分かっています、私は……もう、覚悟は出来ているので」
ここで勝手に死ぬ気でいるようだが……残念、俺は逃がさない。
「何を言っている、殺しはしないし、だからといって逃がすわけではない」
「一体、何を……?」
ここで、とある魔法を行使する。俺が昔開発した、【拘束】というものだ。
「…………っぐ……?!」
魔素の鎖が、エツの身体を拘束した。繋がれた先は狭間の壁、絶対に外れることはない。
「狭間で待つという選択をしたのが間違いだったな。魔素がなくなるか、もしくは精神が崩壊するまでお前はそのままだ」
その言葉の意味するところを悟ったのか、エツの顔がどんどん青ざめていく。そして、魔法を行使しようとし始めたが……。
「言っておくが、魔法を行使して魔素を尽きさせようとしたって、そうはさせない。もちろんその鎖には、【魔法妨害】も付与されている」
それを聞いて完全に諦めたのか、エツはうなだれた。魔素が尽きるのを待つことにしたようだ。
「早く、行って下さい。あなたでも、勝てませんよ。陛下には――」
「俺だって……俺だって、鍛錬は積んだ。あいつに対抗できるよう」
そう……あの圧倒的な力には、奇襲などの小細工は通用しない。少しでも多く鍛錬を積むしか、方法はないと言っても過言ではない。だから俺は……ずっと、この日のためにやってきた。
俺はその場をあとにし、エツの魔法を妨害して現れた出口の扉へ入った。
裏世界に入るその一瞬の時、周りの気配を察知し、高度な【隠蔽】を付与、最も監視の目の少ない場所へ降り立った。一応、できるだけクレセント城の近くにした。事前に組んだルートで、【不可視】で姿を、【遮音】で足音や風を切る音を消しながら、【飛行】を使って駆け抜けていく。目的地は、地下の秘匿室。あそこほど、何かを隠しておくのにもってこいな場所はない。……あの場所を俺が知っているということは、誰も知らないはず。
今のところ、俺が侵入したことがバレている様子はない。もしかしたらあの抜け道が塞がれているかもしれないとも思ったが、要らぬ心配だったようだ。階段まで侵入成功、地下へと降りるための隠された階段の前に、今俺はいた。
"関係者以外立ち入り禁止 騎士たちに告ぐ。遊び半分でこじ開けた場合には警報が鳴り響くため、やめること"
そんな張り紙がしてあった。確かに鍵が掛かっているようだが、こじ開けられなくても解錠すれば問題ない。
一応、この先にある気配を探る。二つだけ確認できた。結衣と玲良のものだ。姫様の気配は、どこか別の場所で隠蔽されているようで確認できないが……。騎士はいないみたいだから、これなら……。
俺はサクッと解錠し、階段を駆け下りた。




