3.少年
「さようなら」
「さようなら!」
一日が過ぎるのは早いもので、もう下校時刻になった。部活動に所属している子たちはもう支度を始めているし、他の子たちもどんどん帰ってく。……早く私も帰ろ。確か今日は陸上部の活動日ではないはずだから、玲良ちゃんと帰ろうかなぁ。
「玲良ちゃん、帰ろ」
「うん!」
教室を出て、校舎を出て、学校を出る。
私と玲良ちゃんは、帰り道が途中まで同じ。だからいつも、帰りは一緒に歩いてる。
「最近あの子がね、……」
どうでもいいような話で、暇な間を潰しながら歩いてく。
そのまま話しながら歩いて、10分くらい経ったかな。どこにでもあるような、一つの交差点が見えてきた。
「もう着いちゃったね」
私はこの交差点を真っ直ぐ、玲良ちゃんは右に曲がる。今日はここまで。
「うん、そうだね。じゃ、また明日」
「じゃあね」
交差点を過ぎると後は、家まで10分とかからない。さっさと家に帰れば良い……んだけども。
さっきから、妙な気配を感じる。ストーカーかと思って、それとなく振り向いて確かめても、誰もいなかった。それでも、確かにそこに何かが存在しているように感じる。不思議な感覚。
こんな道でキョロキョロしていたら、怪しがられる……気がする。とりあえず今は我慢して、家の玄関で確かめることにしよう。
少し早足になりながら、帰り道を急ぐ。
それから約5分後。家についた。鍵を開け、玄関の中に入る。そしてドアを閉めて、振り向く。
じっと見つめても、何も、見えない。でも、やっぱり何かがいる。……一体何だろう……? もしかして、人……? 一旦靴を脱いで、廊下まで少し下がってから、確かめよう。
「誰かいるの? ……いるでしょっ……!」
これが何なのか……。正体を、知りたい。
思わず指した指先から、眩しい光が走った。淡い黄色の、小さな光。そして、その光は私の正面でパッと弾けた。……その光の先にいたのは、少年だった。
…………い、今の光は一体……? ……いや、その前に。
黒の上着に、黒の長ズボン。髪の毛も、目の色も黒。ほとんど全身真っ黒の、私と同じくらいの少年が、すぐそこに倒れ込んでいた。
「えっと……大丈夫……?」
思わず駆け寄ると、ピクリと少年の体が動いたのが分かった。どうやら意識はあるようだ。
「…………」
だが、黙ったまま、口を開いていない。
「あの……怪我とか、してない……?」
「……、お気づかい、無用でございます」
少年は、立ち上がりながら言った。
「あ、あなたは……?」
「このような真似をして、申し訳ございません。私は……カイリ、と申します。貴方様あなたさまを御迎えに参りました」
そして、いきなり跪いた。
「え、えっと……? ……な、何?」
「いえ……貴方様は……。簡潔に申しますと、貴方様はユイ・サルン・アリッシアという名の……アリッシア王国の、第二王女にあたる御方なのです」
……え? …………はい?
……今、このカイリ、と名乗る少年は、私のことをユイ・サルン・アリッシア、アリッシア王国第二王女、と言った。ユイ、というのはまだわかる。けど、その後に続く名前は、アリッシア王国というのは、第二王女というのは何なんだろう。少なくとも私は、そんな国は、そんな立場は、知らない……。
「あの……まず、その、アリッシア王国、っていうのは何?」
「そこからお話する必要がありますね……、少し話すと長くなると思うのですが、よろしいでしょうか?」
今日は、幸い? と言うべきか、何も予定は入ってない。
「うん、大丈夫だけど……」
「ならばお話いたしましょう。貴方様の“過去”のことを」