37.転移
「……っく、今のは……魔震か?!」
気配が濃くなり、結衣と玲良が消えたその瞬間……空気が、震えた。これは恐らく、魔震だ。
魔震というのは、無理に魔法を行使した際発生する揺れだ。相手はわざと、この魔震を発生させたらしい。おおよそ、邪魔されるのを嫌ったか。何にしろまずは相手の確認、魔震は、発生させた魔法の大きさや使用者の錬度によって揺れの感じが異なってくるため、そこから相手の推測が可能。
この感じだと……どうやら相手は、まだ扱いなれていないまま行使したようだ。かなり規模は大きいが、これはやはり、【転移】。それも、魔力の消費と転移後の隙を捨て、速度と掛かる時間を突き詰めた、改良版。結衣と玲良を一瞬で抱えて、また戻って逃げたようだ。こうなると、追いつくのは、不可能。
そう判断した俺は、すぐに家へ帰宅した。【隠蔽】と【飛行】で、道を駆け抜ける。【転移】で向こうに行くなら、出来るだけ人の目のない屋内が好ましい。
きっと相手は、あいつの部下……。ならば、俺がすぐに向こうへ戻ることも、想定内だろう。それ相応の準備が必要かもしれない。どうせ追いつくことが出来ないのなら、より確実に攻めにいく方がいいはずだ。城には、熟練の騎士たちが何人もいる。数人ならまだしも、一人で何十人も相手するのは難しい、流石に抜け道を使うしかないか……。
棚にあったコピー用紙をメモ代わりにして、城内の地図を書き込んでいく。ここは確実に戦力を集中させているはず。通らない。ここは確か、あいつとハヤトは知らなかったはず。いや、数名知っている騎士がいるからだめか……。ここは……。
30分ほど掛け、全ての道の警備状態を予想し、書き入れた。そこから、最適なルートを導き出していく。……まだ幼い頃にソウとやった、あのルート構築の遊びが役に立つとは思わなかったな。
時計を見ると、現在時刻は13時過ぎ。このまま向こうへ転移すると、大体到着は……19時といったところか。基本的に、【転移】を使って世界の壁を越えるのに必要なのは、時間だ。世界を跨いで転移する場合は、どうしても時間の流れに反することになるため、狭間の分の移動時間に加えて、余分に時間が過ぎてしまうのだ。
もし出来るなら、敵と同じような改良版のものを使って、とにかく早く移動したかったが……。こちらとしては、その後戦闘になる可能性を考えて魔力は温存しておきたいし、隙を生むなど自殺行為に過ぎない。よって、俺は別の型の改良版、速度を落とす代わりに魔力消費を抑え、転移後の操作が効くやつを使うとしよう。
それにしても19時か……。どうする? このまま突撃しても良いが、夜だとあの城は強化されてしまう……いや、こちらにとってもそれは同じ。なら、今のうちに攻めてしまうか。
「よし……待ってろよ」
【転移】の魔方陣をより細かく、より精密に。改良に改良を加え、隠密行動に特化させる。……完成だ。これで、問題なく作動するはず。
狭間に居座るのは精神に直接的に負荷が掛かるため、流石に敵はいないとは思うが……一応、戦闘準備もしておこう。
魔方陣の中心をタップ、【転移】を発動。作り出された光の門へ、飛び込む。
世界を越えるときに時間が掛かってしまう分、扉から扉への移動は出来るだけ速く済ませる。加速、魔素火力全開。裏への扉目指して、先へ進む。
…………こんなに、狭間は広かっただろうか? この速度なら、5秒とかからずに到着するはずだが……おかしい。何者かの手が、加えられている。周りの気配を探る。………………!!
一瞬の殺気に気付き、咄嗟に身を横へずらした。振り返れば、つい先程いた場所には高威力の魔素弾が通り過ぎていった。
「ほう、今のを避けますか。流石は、"元"殿下といったところでしょうか?」
「……誰だ」
あの殺気は、間違いなくこいつのものだ。そして恐らく、この狭間を広げているのも。
「……精鋭『ディリア』所属、"夢幻惑"のエツ。この役を引き受けたのは自らの意思ですが……もちろん、陛下の命で貴方様を消滅させに参りました」
そう言ってにやりと笑うエツ。一応こいつは昔にその強さを見たことはあるが……確か現在は、ディリアの中でも2,3番手に位置する強者。だが……それでも俺にとっては、弱い。
「消滅……か。あいつも面白いことを言うことだ。俺は、精鋭の一番手にもハンデ有りで勝てる自信がある。……こんなところで、お前なぞと遊んでやる暇はない」
出来るものなら無視して先を急ぎたいところだ。が……そもそも狭間を広げているのはこいつだし、情報が向こうへ渡される可能性は捨てきれない。必然的に、ここで倒して気絶なり何なりさせなくてはならないな。
「その自信、いつまで持ちますかな?我らも日々強くなっているのです。それこそ、あんな場所へ逃げた貴方様と比べ物にならないほどに!」
……かなり、自信があるようだ。しかし、いくら鍛錬しようと、ただの人間と、龍人との差は埋まらない。本気を出さずとも、加えて魔力消費を抑えて闘っても、勝てるだろう。
「自ら引き受けた、と言ったな。……俺を相手したこと、後悔させてやろう」




