30.剣たち
コクと話し終え、膝から降ろす。
「……どうだった、上手くいったか?」
「うん、バッチリ。色々聞かせて貰えたし」
「そうか、良かったな。……表に戻ったら対話は出来なくなるから、今のうちに沢山話しておくといい」
「え、何で? …………あ、もしかして、魔素の所為……?」
「正解。よく分かったな」
この前、なぜ魔法が表世界では使えないのか? という話で、空気中の魔素が少ないためだと聞いた。なら、同じようなものかと思って言ってみたら、本当に合ってた。でも、そこで魔法の詳しい原理は教えてもらわなかったから、どう魔素が関係しているのかは分からないけど。
「魔素っていうのは、意思の元……とでも言えばいいかな、イメージの元となる意思そのものが、粒子状になって飛び交っている、そんな認識でいい。魔素には、意思を具現化、または最適化するという、いわば意思の媒体となるはたらきがある。例えば魔法なら、その魔法のイメージを魔素を通して具現化させる。剣と対話するのも同じようなもので、剣達が持っている意思を、魔素を通して持ち主に伝える。それによって、会話が成立するんだ」
「つまり表で対話が出来ないのは、剣達の意志を伝えるだけの魔素が空気中にないから……で、合ってる?」
「そういうことだ。……まぁ、才能次第では表でも意思疎通が出来る、という人もいるようだが」
「なるほど……じゃあ、話しかけるデメリットとかはあるの?」
もし、対話によって剣に負担がかかる、とか何とかあるなら、頻繁に話しかけることは避けたいけど。
「いくつか……ただ、剣と使用者自身に直接的な影響はない。デメリットとしては……そうだな、人目のある所で話すと、単純に目立つ。対話が出来るのは、かなり高位な剣に限られるから、対話できるというだけでも価値の高さが誰にでも分かる。その所為で、変に絡まれたり、盗まれたり……なんてこともあり得るんだ。だからとりあえず、赤の他人が周りにいるときは避けたほうがいいだろう」
ふむふむ、高位な剣だけしか対話は不可能……確かに、盗って売れば相当な価格になるんだろうし、気をつけないといけないな。逆に言えば、対話でもしなければ高位であるということは分からないわけだから。
「ま、剣によっては『話すのがダルい』なんて言う奴もいるらしいけどな。少なくとも、ユイのコクはそれとは違うタイプだろ?」
「うん、そうだね。何だろう、こう……一人称は我だし、私のこと主とか其方とか呼ぶし、それに敬ってくれてるみたいなのに敬語じゃないし……まさに昔から生きてるって感じ。あくまで、私の直感なところはあるけど」
「アルジェも似たようなものか……何というか、剣も持ち主のいわれに似るのか?」
「……アルジェって、どんな感じなの?」
ふと、気になって訊いてみた。コクに似ると言うけれど、どのように似るんだろうか。
「アルジェか? ……俺のことは呼び捨て……にしてもらっている。これは俺が頼んだことだ。あとは、全部敬語で話す。本当ならそれもやめてほしいんだが、これは譲ってくれなかった。それと、俺とは長い付き合いだから、俺のことは何でも知ってる。自分で知らないことさえ、アルジェは分かっている……ここに関しては、アルジェには敵わないんだ」
「……いい親友だよ。私も、コクともう少し仲良くなりたいなぁ」
「時間が必要だからな。一緒に過ごしていくうちに、だんだん仲良くなれるさ、きっと」
それにしても、カイリくんは長い付き合いだと言ったけど、どのくらい長いんだろう? 5年くらいとかかな……。
「ねぇ、カイリくんとアルジェってどのくらいの付き合いなの?」
「アルジェとは……大体、8年の付き合いだな。出会ったのは、俺がまだ幼い頃だった」
「……詳しく聞かせてくれない? その話」
何だ、思っていたよりずっと前からだったか。ただ、8年前というと……6、7才くらいのときってことになる。そんなに小さなときに、どうやって剣に触れたんだろう?
「いや……あんまり人に聞かせれるような話でもないしな、やめておく。それより……剣の練習、始めるか?」
「あ、そっか……忘れてた。始めようかな。何すればいいの?」
気になったし、かなり聞きたかったけど、カイリくんが嫌と言うなら仕方ない。そういえば、剣の練習をしようとしてここにいるんだった。
「まず俺と打ち合ってみて、ダメなところをだんだん直して行く形になると思う。ユイはまだ、打ち合いはやったことないんだよな?」
「うん、そうだね」
「なら、とりあえずは剣に従ってみてくれ。動き方は、剣が教えてくれる」
「了解!」




