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27.アルジェ

「あれ……? ……ユイ?」

 5分ほど休む、先程ユイは確かにそう言ったはずだ。だが、5分経過しても、やってこないことに気付いて見に行ってみると、ユイは……。

「……にゃ…………あっ、それ……おぉ……すご……」

 寝言、だろうか? 訓練場の床に寝転がって、寝言と共にすやすやと寝息を立てている。

 困った、どうやら寝てしまったようだ。この感じだと、魔力切れ……ではないだろう、きっと疲れて寝ているだけだ。そうなると、大体……1時間は起きないんだろうな。……なんだろう、寝顔、可愛いな……。

 ……おっといけない、一応俺はユイの従者という立場がある。主を可愛いなどと、何をほざいて……。まぁいい、とりあえずは素振りでもしておこう。……ユイが目覚めたら、稽古として打ち合いでもしてみるか。

 愛剣のアルジェを握り締め、柱に見せかけた素振り用の的に向かって、振る、振る。何十回も、振る、振る。素振りに重要なのは、とにかく無心になること。ただただ何も考えずに、剣だけを的に向かって振り続ける。そうすれば、そうそう外れることはない。

 そのはずなのに……なぜだろうか、最近は素振りが上手くいかない。100回ほど打ち込もうとすれば、その内の15発くらいが外れてしまう。こんなことは、おそらく生まれて初めてだ。自分自身を思わず別人ではないだろうか、と疑ってしまうほどに、失敗ばかりだ。

 そのことに対する焦りもまた、失敗の要因の一つとなり、悪循環が続く。今までは、無心になるなど簡単なことで、ただ単にアルジェを握って振れば、一瞬で悩みなど吹き飛び、気付けば時間が過ぎていった。最近は、もう何十分も経っただろうと感じて時計を確認してみると、たったの5分ほどしか経過していない。そればっかりだ。今日でさえ、もう何回もそれを繰り返している。

「……はぁ……」

 思わず、ため息が出てしまった。本当に、俺はどうしてしまったのだろうか。……あの日ですら、何も感じなかったというのに……。いや、違うか。あの日は……あの日は、姫様が迎え入れてくれたから、何も不安や心配といった、負の感情が何も感じられなかっただけだ。だが、最近は違う。あの時感じそうになった、恐れや怒りなどのような、怖さではない。何だか……胸が高鳴るような、そんな感じだ。言ってしまえば、この気持ちもそんなに悪くないと感じている。そう思えるほど、……何て言うのだろう、ワクワクしている、というか、まぁそんな感じなのだ。

 ただ、これで剣の練習に支障が出てしまうのはやはり困ってしまう。……うーん、仕方ない。……誰も見ていないし、今ならいいか。

『アルジェ、ちょっといいか?』

 床に座り、アルジェを膝に乗せ、横に置く。刀身を撫でながら、声に出さず問いかける。

『はい? どうされました、殿下』

 するとすぐ、頭の中で中性的な声が響く。アルジェとは、こうしてよく話す。……近頃、この一連の騒動の起きたあたりからは、全くといっていいほど話す事はできていなかったが。

『……久しぶりに呼び出したのは悪かった。ただ、何度もいったが殿下はやめろ。今はもう、王国の従者となったのだから』

 アルジェに対して、注意する。昔の名残か、今でも敬語で話してくるのはまだ容認できるが、この呼称だけは禁止するようにしている。

 そう、もう自分は、あの国の人間ではない。あの時、そう誓ってから、ずっと……。

『……承知いたしました。では、改めて……何用でしょうか、カイリ』

『相談がある。最近……どうも様子が変なのだ』

『カイリの……ですか』

 流石は8年付き添っただけはある。すぐに言いたいことは理解してくれた。

『……あぁ。分かってると思うが、何だか上手くいかない』

『剣の訓練が……ですね。はい、存じております』

『……その理由が、分からない。教えてはくれないか? どうしてもこれでは困ってしまう』

 その言葉の後、少し沈黙してから、また話し始めた。

『……これからお話します事は、カイリにとって大いなる意味を持つでしょう。そして、今後の生活に支障をきたす可能性を、私は否定できません。それでも、よろしいでしょうか?』

 もし、支障をきたすとしても……それは、自分で解決すべき問題なのだから、何ら問題はない。アルジェに、続けるよう促す。

『……あぁ、構わない……。話してくれ』

『……カイリが今、感じている、その気持ち……それは、恋、です』

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