25.宿
「次は~……小的当てだね。ねぇ、あそこ、あの木の的、見える?」
「うん……だいぶ小さめに見えるけど、もしかして……」
レイラちゃんが指差した先にあったのは、木の素材をそのまま使ったらしい、木目そのままの的。かなり小さく、その大きさは壁掛け時計より少し小さいくらいに見える。
「そ、あれが小的。あれに魔法を当ててくの」
「あんな小さな的に……!?」
「……コントロールの訓練だ。さっきも言ってたが、ここの訓練場は頑丈だから、とにかく気にせず撃ってみてくれ」
「分かった……」
小さな場所に当てるなら……細かく狙いが定められる魔法がいいかな。それじゃあ……。
周りの魔素を、輝石生成と同じ要領で針の形に変えていく。先の細かい針なら、行けるんじゃないかと思った。的を狙って飛ばす。結果は、失敗。ダメだ、細かすぎて逆に操作が難しい。
「ふむ……この感じだと、もう少し大まかな魔法が良さそうじゃないか? 中心を狙う訳じゃないし、的に当てることができればいいんだから……」
なるほど、確かにそうだ。それだったら……これとかどうだろう? 氷の矢を出現させ、弓をイメージ。その弓を使って、先程出した氷の矢を射る。矢は……よし、当たった。
「いい感じだ。やっぱり才能自体はあるから、努力すればもっと強くなる」
「ありがと。……これ全部を毎日やるのかぁ……大変そう」
「まぁまぁ、頑張ってみてよ。多分ユイちゃんなら、これやってれば大体力は付くと思うからさ」
「そうだね。……とりあえず、疲れた」
「しばらくは宿を王都のどこかで取るか。できればここに近い場所がいいが……」
「私、ここに近くて綺麗ないい宿知ってる~。案内するね!」
「狼の果実亭……? ここが、レイラちゃんのお勧めの宿で合ってる?」
あの後、訓練場で少しだけ色々試してから、レイラに案内されて私たちはその宿へやってきていた。
そこは少し埃っぽい路地裏にある、こじんまりとした宿だった。名前は、"狼の果実亭"。
「うん! ここだよ~。歩いてて分かったと思うけど、訓練場に近いでしょ? よく使うんだよね~」
確かに距離的には近かった。けど……言っちゃ悪いけど、こんなに埃っぽいところにある宿が、ほんとに綺麗ないい宿なんだろうか?
「確かに、ここは穴場かもな。貴族達や旅人達も、こんな路地裏にはなかなか来ないだろう。それでいて……外から見ただけでも、この宿は整っている。よくこんな所知ってたな、レイラ……」
「へへーん、私、これでも王都の道と店は全部把握してるからね~。昔ずっと探検してたから、王都の中で知らないことはほとんどないよ~!」
「へぇ、凄いね……! 私も早く、王都の構造だけでも覚えなくちゃ……」
なんとなく、カイリくんの方を見てしまった。すると、何か言いたげにしていたので、そのままにしていると、カイリくんは少しだけ悔しそうに言った。
「……言っとくが、俺だって王都の道や住民層ならほとんど把握してるつもりだ。……流石に店までは知る必要もないと思っていたが…………意外と役に立ちそうだな、覚えておこう」
「じゃ、早く行こ! チェックインの時間もあるから、ずっと入り口でのんびりするわけにもいかないし」
私たちは宿に部屋を取った。ここでもカイリくんがまた謎の別部屋へのこだわりを見せたので、仕方なく私とレイラちゃん、カイリくんだけで合わせて2部屋にした。やはりというか何というか、受付の人が困惑していた。なんでも、「これだけは絶対に譲れないんだ……。頼む、もし部屋数がないというのなら俺だけでも他をあたる」とのこと。……どこまで嫌なのさ……?
その後、また3人で王都の街を見て回った。興味深いものばかりで、思わず好奇心で何でも買いたくなってしまう。とりあえず今日は、何も買わないことにして少し我慢。気になったものを片っ端から買っていったら、一瞬でもらったお金が溶けてしまう気がした。宿に戻って来たとき、我慢してよかった、と安心してしまったほどに、興味深いものが多かった。そして、意外と高いものが多かった。
宿に戻ってきた後、私とレイラちゃんの二人部屋でカイリも混ぜて練習に関係する話をいくつも聞いた。中には面白そうな話もあり、聞いていて全く飽きなかった。アドバイスもどれも参考になるものばかりで、私は明日からすぐに試してみることにした。
そんなこんなで、あっという間に裏世界3日目が終了。本当に、時間が過ぎるのは早いものだなぁ、なんて、何だかしみじみと思ってしまった。




