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1.プロローグ

 ある世界のとある国“アリッシア王国”は、普段と少し違う夜を送っていた。

「……」

 王国の城の最上階、ミーナ・フォン・アリッシアは一人、自分の寝室で、静かに夜空に浮かんでいる月を眺めていた。ミーナは、現在この国の王妃である。国民や彼女と親しい者達は皆、彼女のことを「姫」と呼ぶ。そんな立場にありながら、国の政治に対して様々な提案をし、いくつか改革も行っており、国民からも慕われている。


 先日の夕方、一通の手紙が城へ、正しくはミーナ宛に届いた。この手紙を、ミーナの元へ開封せずに持ってきた宰相のタツキは、報告した。

 曰く、この手紙は決められた者、今は恐らくミーナにしか開けることができないようになっているそうなのだ。本来ならこのような手紙はまず、国王の右腕であるタツキが一度先に開けるのだが、何らかの術がかけられているらしく、開かなかったという。そのため、直接ミーナの元へ届けたとのことだった。

 それを聞いたミーナは、何かを感じてタツキを退室させると、その手紙を開いた。


美那へ。

 久しぶりだな。手紙を書くなんて。ちゃんと届くといいのだが。もし返事があるなら、ナルの大河に流してくれればいい。

 一つ、頼む。この手紙は他の誰にも見せないでくれ。そして、他の誰にも言わないことを約束してほしい。

 近いうちに、アリッシア国王殿は消えるだろう。他の者には、もう一枚の方を見せるんだ。

 私は、私の気持ちはいつまでも変わらない。美那だって、すぐに気付くはずだ。私の方が、美那といるのに相応しいということに。だから……待っていてくれ。

 ……では、また会える日まで。

                  楓莉より。


 もう一枚、手紙と思われる紙が入っていた。


アリッシア国王殿へ.

 近いうち,この国の特別な《モノ》を頂く.


(……私はもう、あなたと関わることは許されない。全てを、あの人が決めてしまったから……)

 その手紙の中身を確認したミーナは、すぐに危険を感じ取り、対策を取ることにした。

 国王に頼み、急遽国の重臣たちを集め会議を開いた。そこでミーナは、もう一枚の方の手紙を出した。すぐさま対策を取るべきであると、懸命に訴えた。

 やはり皆、驚いていた。こんな、争いをふっかけるような文書が届いたのだから当たり前だ。今でも非難され続けるあの争いの時代から、もう何年も経っているというのに、何故今になって……と。

 ミーナと、そしてもう2人。国内には、3人しかこのことについて少しでも知る者はいなかった。けれども3人とも、その事実を言い出せない理由があったのだった。

 結局重臣たちは皆、事の重大さに気付く様子もなく、「どうせただの脅しだろう、そんなことに人員を割いていられるか」と、聞く耳を持たなかった。何とかミーナの訴えによって、城の警備を厚くする、ということだけは取り付けられた。正直な話、もう少し良い結論が出せると考えていたのだが、仕方がない。何もしないよりはまだ良いはずだ、と自分を納得させ、ミーナはそこで引き下がった。


 こんな訳で、姫という立場を持つミーナは今夜、外出禁止、ということになっていた。本音を言えば、今すぐにでもナルの大河に行って、一刻も早く、返事を流したかった。

 このままではまた、昔のように大戦が起きてしまう。なんとしてでも、避けなければいけない。無関係な民たちが、巻き込まれてはいけない。

 ミーナは昔の大戦のとき、まだ産まれていなかった。だが、その光景を、その悲惨さを、ミーナは実際に目にしていた。あのようなことは、二度と起きてはならない。起こしてはならない。それを止める役割を持つのはおそらく、あの人とも一国の国王とも繋がりのある自分だ。しかし、この姫という立場が、それを邪魔する。

 ……いっそのこと、姫なんてやめてしまいたい。だがそれは許されない、いや、自分にはできない。そう、この国には、自分を必要とする人々がまだ、残っているのだ。せめて、民たちをシンと共に導いてあげなければいけない……。

 こんなときに思い出すのはケイの存在だった。ケイが今、ここにいてくれたなら。相談に乗ってくれたなら、どれだけ心が楽になっただろう。だがそれは、決して叶わない夢の話だ。ケイは、あの子を護るため、向こう側に行ってしまった。そしてあの子をおいて、こちら側で消えてしまった。今は、生きているかさえ、定かではないのだ。

(見落としてる。絶対に。何か……)

 何かまだ、心残りがあった。まず、警備を厚くした程度で、あの人を止められるとは考えられない。それだけ、あの人の力は強力なのだ。そして、このままではいけない、という本能のような警報が頭に鳴り響いていた。やはり、あの子を連れてくるしかないのだろうか……?

 不安で、眠ることなどできない。そのまま、夜は過ぎていった……。

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