16.出逢い
「いらっしゃいませ、ウィル武具店へようこそ。何か身分の証明になる物はお持ちでしょうか?」
あの後私は【隠蔽】を解き、【幻影】で青年に化けたサナについて、市街にある武具店に来ていた。何でもここは、王家や上級貴族達も利用する、かなり腕のいい店なんだそう。
この通り、身分証明は必要になるけど、何もこれは、自分が誰かではなくこの店を利用できるだけの人物であると確認させればいいので、サナが王族だとバレる心配もない。
サナが取り出して見せたのは、主に王家と親しいが貴族ではないというような人物などに送られる、王家公認のバッチ。実際に、王家の紋章が刻まれている。それを確認すると、店員は頷き、営業スマイルで言った。
「……はい、確かに確認いたしました。本日はどんな御用でしょうか?」
「……店主のテツに用がある。顔なじみだし、まぁ伝えれば分かるはずだ」
「……かしこまりました、少々お待ち下さい」
「店主があなた方をお呼びです。こちらへどうぞ」
しばらくして、店員が奧の方から戻って来て、そう告げた。言われた通り、店の奥の扉から部屋に入る。
部屋の中にいたのは、三十代前後の男性。ここの店主らしく、見ただけでも腕がいいことが分かる。
「久しぶりだね、サナ。……おや、今日は連れがいるみたいだね、その子は?」
「ユイっていう、私のちょっとした知り合いでな、今は武器を探しているところだ。……それで、いくつかアレを出してほしいんだが……」
「そうか。普通はOKしないんだけど、長い付き合いだし、サナの頼みだからいいよ。それに……こうするってことは、その子の才能は凄いんだろ? いいよ、ちょっと待っててね」
サナはいつの間にか、扉に【遮音】と鍵を掛け、そして【幻影】を解いていた。全然気付かなかった……凄い技術。私もいつか、あのくらいできるようになるかなぁ。
そんなことを考えていた内に、店主が何本かの武器を持って戻ってきた。どれも輝いていて、見るだけでもかなり質のいいものなんだと分かる。
「はい。……それで、どうするんだい? 選ぶ? それとも選んでもらう?」
店主はその武器達を立てていきながら言った。
……今の言葉は、明らかに私ではなくサナに向けられていたと思うんだけど、よく分からない……。選ぶっていうのは分かるけど、選んでもらうっていうのはどういうことなんだろう?
「選んでもらうよ、私もそうだったし。…………いいか、ユイ。今から武器に選んでもらってくれ」
「……え、武器に?」
「あぁ、ここに並んでいる武器達は皆、意思を持っている。説明するから、その通りに動いてくれ。まずは目を閉じる。すると暗闇の中に、光が見えてくるはずだ。そしたらその光目指して真っ直ぐに進め。そのまま光を手に取ればいい。……分かったか?」
「うん、やってみるね……!」
サナに言われた通りにまず目を閉じる。すると、確かに光が見えた。
『ふむ…………お主が今回来た者か?』
『えっ……?!』
声が、聞こえる。光が、私に話しかけている。
『そんなに簡単に選ばれると思うな、凡人……。……ん? いや、これは……?!』
なんだろう、いきなり声の主が驚き始めた。
『……どうしたの?』
『……お主はまさか、フェルトンの者か……?』
フェルトン……。どこかで、その言葉を聞いたような……? でも少なくとも、私のことではないはず。
『フェルトン……? ううん、多分違うよ。私はユイ。ただの一人の人間。それで、あなたは……?』
『銘はない……。ただし一振りの剣として、コクという名は持っている』
『……じゃあコク、私が使っても、いい? ……これから私、あなたみたいな、仲間が必要になると思う。だから……どう? 一緒に、行かない?』
『仲間……か。……喜んで其方の剣となろう。……きっといつか分かる……。……秘められし、其方の力』
声の消えた、光っている方へ足を進める。目の前、手の届く所まで歩き、光を掴む。
「……ユイ、目を開けてみろ」
サナに言われて目を開くと、私は一振りの剣を手に持っていた。それは黒く闇のような、けれどとても綺麗に輝く一つの片手剣だった。
「これが……コク」
私は思わず呟いた。ただ、その声は本当に小さなものだったからか、他の二人には聞こえなかったらしい。
鍔の部分には王家の象徴である銀の飾りが控えめに輝いている。柄つかは白く細く、そして私の手に絶妙に合っている。暗い黒の刀身は、少し光って見えた。
「テツさん、この剣で…………いいですか?」
「あぁ。少なくともサナが認めてるんだ、雑な扱いを受けることもないだろうさ。もらっていってくれ。代金は……まぁ、サナだからタダでいいよ」
テツはコクを抱える私に、笑って黒い鞘を渡してくれた。コクを鞘にしまい、腰についていた剣帯に吊るす。うん、完璧。
「……テツ、もし誰かが訪ねてきて、何か探られでもしたら、こいつは修理中にしておいてくれればいい。買われたとか、譲ったとかにすると、トラブルが起きかねないからな」
「了解。これでもシラを切るのは得意さ、任せろ」
「いつも助かるよ。また今度いいお茶でも持ってくるから話そうな」
「あぁ、いつでも歓迎さ、待ってるよ」
サナは自分に【幻影】をかけ直し、ついでに私の鞘に【透明化】をかけた。これで私達はここへ来る前と何ら変わらず見える。
「じゃあな」
「ありがとうございました!」
店主にお礼を言い、私達は店を後にした。




