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10.出発

 翌日、朝の9時。私達は支度を済ませて、二人でリビングにいた。

「いやぁ、いよいよ裏側に行くのかぁ……」

「あぁ、そうだな」

「……ん? でもこれ、どうやって行くの?」

 そういえば、聞いてなかったや。これも事前に聞いておくんだったなぁ。そんなことを思いながら、海莉くんに聞いてみる。

「……そういえば、そこは何も話してなかったか。まぁ簡単さ、ちょっと見ててくれ」

 そう言うと海莉くんは、早速魔方陣を描き始めた。これは……あれ? 見たこと無いやつだ。昨日渡してもらった一覧表にも描いてなかった気がする……。複雑な形がどんどん出来上がって行く。

「完成だ。この形はまだ教えてなかったな。……これは、【転移】だ。この魔方陣は、イメージ魔法と実用魔法の組み合わせみたいなもので、転移先をイメージしながら魔方陣を描かないと、上手く発動しない。その所為で魔法の中でも結構難しい部類に入るから、一部の人しか使えない。それにこの魔法、物凄いくらい魔素効率が悪いし、加えて空気中の魔素を伝って転移するものだから、表世界じゃほぼ全く使えない。そして裏世界でもほとんど使われない、マイナーな魔法なんだ」

「そんな魔法を使うの?」

「……マイナーとは言ったが、それは世界を越える人が少ないからで、それにこんなときに使えるのはこの魔法くらいしかないし。一応覚えておいて損はないはずだ」

「じゃあ、覚えとこうかな」

 かなり複雑で大きめの魔方陣だから、覚えるのは大変だ。……というかよく考えたらこれ、私にはまだ使えないんじゃ……? だって、転移先のイメージがないんだから。実際に存在する転移先じゃないとダメそうだし、それなら一度は裏側に行かないといけないなぁ。

「もういいか? もうそろそろ発動猶予時間が過ぎてしまうから、発動させたいんだが……」

「あ、うん。大丈夫だよ。……発動猶予時間って?」

「言葉の通りだ。実用魔法の場合、描き終わってから発動させるまでの時間に制限があるんだ。ちなみにその時間は、使う人の魔力量に依存する。俺の場合は、大体3,4分くらいだな」

「なるほど……」

 つまり、魔方陣をいつまでも発動させずに保持するのは難しいってことかぁ。もちろん、発動させてしまえば関係ないかもしれないけれど。

「……ちなみに、私の場合だとどれくらい?」

「……測定器の類を使っていないから、正確なことは分からないが……そうだな、軽く10分くらいは越えるんじゃないか?」

「10分……?!」

 ……つまり私の魔力量は、海莉くんのそれを軽く超えると。

「まぁ、なんせあの一族と王家の子孫な訳だしな……軽く見積もってそのくらいだろうな。実際はもっとあると思うぞ」

 うへぇ、そんなにあるのか、私の魔力量……。

「でも、全部使えるわけじゃない。ユイはまだ、使える魔力の量が少ないから、今はまだ宝の持ち腐れに近い」

「そうなのか……」

「練習すれば、また変わってくると思うけどな。使える魔力量としては、今は大体俺よりも少ないくらいだろう」

 うーん、何だかもったいないなぁ。でも、向こうで練習できればまだわかんないし、いっか。

「じゃ、いくぞ」

「あぁ、そういえば発動させてなかったんだっけ……。ごめん、続けて」

 海莉くんが魔方陣をタップすると、魔方陣が変形して、光の膜のようなものを作り出した。……よく見るとそれは、扉のようだった。

「……手、いいか?」

「え?」

「だから、手。握ってもいいかって聞いてるんだ……」

 そんなこと、わざわざ確認なんてしなくても……。まぁ、気にしないことにしよう。

「別に、全然いいよ。はい」

 右手を差し出す。

「この先はアリッシアに繋げてある。……世界を越えて転移する場合は、必ず世界の狭間を通らないといけない。変な感じになるかもしれないが、絶対に手を放さないでくれ」

「……うん、わ、わかった」

 海莉くんは私の返事に頷くと、扉の前に向き直り、一瞬、私の手を軽く握ってから、飛び込んだ。そしてすぐに、飛びだした。出た、のではなく、飛び始めた。足が地に付く感覚が無い。確かにこれはしっかりと手を握っておかなければ、すぐにこの空間に取り残されてしまうかもしれない。

 飛び込んだ扉の先に広がっていたのは、何とも不思議な空間だった。これが、世界の狭間……。

 周りの景色は桃色と紫が変に混ざったような色をしていて、ずっと見つめていたらそのうち頭がおかしくなってしまいそう。天井がない。壁がない。……なんと床もない。こんな場所に取り残されるなんて、想像したくもないや。

 海莉くんの手を離さないように、耐えること数十秒。手前にまた、扉が現れた。多分出口だ。

 手を引かれるがまま飛び抜け、そして扉をくぐる。眩しい光が私の視界を埋め尽くして――。

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