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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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06

「お前が遊部 央か」

体育の授業は出ることができない。

目が見えないこともあるし、友達と呼べる人もいないので、央は体育が苦手だった。

体育では何かとペアになることが多い。

恐れられている自分と組みたいと思う人などいないだろう。

それぐらい央にもわかっていたから、いつも屋上で過ごす。

その屋上に、いきなり人が入ってきた。

気配からして、4人ほどか。

央はすぐにわかった。彼らは極道だと。

「あ、の……」

「こいつのどこがいいんだ。若頭は」

「本当だ。学友にするにしては悪趣味だ」

「他の組の愛人を学友にするなんて」

誤解だ。そういうことは聞いていないらしい。

確かに自分は噂ではそう言われているが、本気でそんなことはないのだ。

茅に脅されたのが、暴力団と関わった初めだったし、関わらないように気を付けて生きてきたつもりだったから。

愛人なんて、噂だけでしかないのに。

「お前、若頭を利用するつもりだろうが、やめておけよ」

「今、もう関わらないと言ったら、やめてやるよ」

くすくすと嘲笑が辺りを包む。

央はなんとなくこの先が見えた気がした。

彼らは自分が気に入らない。

今まで一緒にいて感じたことだが、茅はあまり人と関わろうとはしないのだ。

話しかけられても、無視。呼び止められても、無視。

人に声をかけられても、何をされても、茅は無視を決め込んでいた。

頑なに、自分に触れてくるなと全身で訴えていた。

そんな彼が、どうして自分を好きになってくれたのかわからない。

けれど、茅は優しかった。飛竜も、優しかった。

芽が見えない央のために、移動教室も一緒に行ってくれたし、お昼も屋上まで一緒に行った――――連れて行かされたともいう。


楽しかったのは事実だ。

央は今まで、人と関わることが恐ろしかった。

両親以外の人が、恐ろしくて仕方なかった。

そんな自分に優しさやいろんなものを与えてくれたと思う。

そんな彼の優しさを、央はきちんと受け取っていたのだ。

その優しさを、捨てられるか?

今までみたいに一人で生きればいいだけだと理解している。

だが、それを失うことに関しては、央には未知の世界で怖かった。


「何黙ってんだよ!」

「そうだ!貴様はただ頷けばいいんだ!!」

自分は怖がりであることを、央は知っている。

目が見えない分を音に頼るから、よく肩がびくっとするのも知っている。

今も、した。大きな声を出されて、怖かった。耳が占領される。それがどれだけの恐ろしさか。

央は身をもって知っているのだ。

なのに、大声を出されているのに。央は言うことが聞けなかった。

彼らの言うことを聞けば、解放されることはわかっていたのに。

何故だか、央は手放したくなったのだ。

見たことはないけれど、彼が笑う雰囲気が好きだった。

人は笑っている時とても柔らかいから。

その雰囲気が、央は好きで、手放したくなかった。

「この!大人しく聞いてれば!!」

一言も発していないのだから、自分は大人しいとは思うのだけれど。

もとより短気な彼らは、央が何も言わないことが否定だと受け取ったらしい。

そう取られてもいいと思っていたが、気配で自分に危険が来ているのを、わかっていたのに、央はそこを動こうとはしなかった。

バシンっと音がして、数秒してから、央は自分の顔が殴られたのだと知った。

痛い。央は一般人だ。喧嘩は慣れていない。

その上、相手は喧嘩慣れしている暴力団。

劣勢は明らかだった。なのに、負けたくないとそう思ってしまった。

自分は、失いたくないのだ。

優しさも、あの柔らかい雰囲気も。

関わりあいにならない方がいいと言われている3人。

その3人でいるときが、央は学校内で一番楽しかった。

それを、失いたくない。

「言え!これ以上若頭に近づかないと!」

「言えよっ!」

央は顔をあげた。

いつも恐れられている顔が、少しでも役に立てばいいと思いながら。

ここまで、諦めたくないというものを持つことが、初めてだからどうすればいいのかよく分からないけれど。

それでも。

失いたくないのなら、あきらめるなと母親に言われていた。


「てめぇ!俺たちをなめてんのかぁ!!」

「それは、てめぇらだろ」

先程央がやられたより数倍は痛そうな音がした。そして、その数秒後に誰かが倒れた音がする。

「わ、若頭!」

「よぉ。久しぶりじゃねぇの。こんなところで何してんだよ」

茅は少しだけ息が切れていた。

央は目が見えているわけではないが、本気で、怒っているのだと雰囲気でわかる。

「わ、若頭。俺たちは若頭のために」

「俺のため?俺に気に入られたいお前らのためだろ」

はっと吐き捨てて、茅はもう一度凄絶に笑う。

怒っている時に笑ってしまうのは、彼の癖のようなものだった。

「で、俺の怒りをかった奴らは、俺にどうして欲しいんだろうなあぁ」

「ひっ」

小さく悲鳴をあげて、男たちがすみません。許してくださいと謝る。

だが、茅は許し気がなかった。

「飛竜、こいつらを頼むぞ」

「Yes, my lord.」

待っていましたと飛竜がそういう。

そして、にっこりと笑いながら男たち4人を連れて、ルンルンと去って行った。

「大丈夫か?」

そういう茅の声が、とても寂しそうだったので、央は思わず茅のいる方向を向く。

そして、見えないけれど寂しそうな雰囲気になっている茅に何と声をかけていいか、央にはわからなかった。



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