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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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あなたは私を愛してくれますか?


ねぇ、どうしてそこにこだわっているの?

どうして私はそこで止まっているの?

声が聞こえるじゃない。

心配してくれる声が、安心させてくれる声が。

聞こえるのに、それを聞かないふりなんてもうできないのに。

ねぇ、いつまで昔を怖がっているの?

ねぇ、いつまで?



パチリ。央は目を覚ました。

天井は真っ白。

その真っ白がまぶしすぎて、また一度目を瞑る。

「央ちゃん!起きた?」

そう言ってくれる優しい声は、央の今の母親だった。

まぶしいのが納まったころ、央はもう一度目を開ける。

涙目の母親が、そこにいた。

「お母さん」

「な、かば、ちゃ。よかった。よかった」

そう言ってぎゅっと抱きしめてくれる。

久しぶりに母親に抱擁されたなと、央はどこか違うことを考えて。

そして母親の後ろに父親がいるのが見えた。

「お父さん」

「央、大丈夫か?」

仕事を休んできてくれたのだろうか。

スーツは少し寄れていて、仕事帰りのようだ。

「うん、大丈夫」

「そうか、よかった」

そう言って、今度は父親が抱きしめてくれた。

父親が抱きしめてくれるなんて、それこそ小学校以来だ。

なんだか、くすぐったい。

「よかったわ。無事で」

そう言う母親の言葉に、今まであったことを思い出す。

そうだ、自分は実母の所で暴力を受けていたのだと。

思い出して、少しだけ震えたのをわかったらしい父親が、安心させるためにもう一度抱きしめてくれた。

昔、うなされた時にしてくれた抱き方と一緒だ。

それに、央は少し笑ってしまった。


「央ちゃん!!」

そう言って央の病室に入ってきたのは、リルと飛竜だった。

父親が央から離れ、そしてリルが次に抱き着く。

もちろん、飛竜は抱き着くことを少ししか考えていなかったので、抱きつきはしない。

茅の目の前でやったら、少し楽しそうだとは思うが、今はそれで遊べる段階ではなかった。

「リルちゃん。あれ?手、どうしたの?」

「ちょっと飛竜をひっぱたいたら」

えへっと笑うリルはそのあとは何も聞くなと語っていて、央は何も聞けなかった。

後ろで、飛竜が不満そうにしていたのは見えたが。

「飛竜君」

「大丈夫ですか?若姐」

最近、央は飛竜にそう呼ばれる。

飛竜がそう呼ぶから、本家では央はそう呼ばれることが増えた。

「あ、の。茅は」

「若はちょっと、珍しく落ち込んでて。今は会いたくないそうなんですが」

どうして?

央の頭にクエスチョンマークが乱舞する。

どうして、茅は落ち込んでいるのだろう。

そう考えると、いてもたってもいられなくなって、央は病院のベッドを抜けようとした。

が、体が動かない。

「まぁ、今日中には来ると思います」

「今、呼んで」

そうしないと、自分で結論を出してしまいそうな気がした。

その結論を出してからでは、きっと遅い。

「了解しました。少々お待ちください」

聞き分けがいいということは、おそらく飛竜もそう思っていたのだろう。

父親と母親、そしてリルが同じように病室を出ていく。

どうやら、気を使ってくれたらしい。


「央、大丈夫か?」

いつも通り。

そう見えないこともなく、茅は央の前に姿を現した。

でも、央にはわかる。本当に、茅は落ち込んでいる。

「茅、ありがとう。助けに来てくれたよね」

「俺は。俺は、何も、してない」

あぁ、やはりそのことだったのだ。

茅は自尊心もプライドもとても高くて、だからよく過信する。

それに落ち込んだのは、きっと初めてだ。

「何もしてないこと、ないよ」

「いや、俺は何もしなかった!俺はただ、お前が傷つくのを、見ていただけだ…」

どうやら、相当根深いらしい。

たぶん、茅をこんなに落ち込ませるのは央だけだろう。

「俺は、お前を守るって決めたのに。誓ったのに。なのに、俺は自分の姐さえ自分で守れなかった」

「守ってくれたよ?茅は十分私を守ってくれた」

「そんなことない。実際、あの女を止めたのはリルだ」

何もしていない。

本当は、守りたかった。

あんな掟があっても、殴ってやりたかった。

そうしてやりたかったのに。

「俺は、最後に自分のメンツを取ったんだ」

「それって、そんなにひどいことかな」

え?と茅が顔を上げた。

そうだ、先ほど落ち込んでいると思ったのは、茅の顔が若干下を向いていたからだ。


「私ね、あの人に会ってやっぱりあの人の思い通りに体は動いちゃって。でもね、前より怖くなかった」

にこりとあの人形のような瞳とは違う笑顔で央が笑う。

「茅が助けに来てくれるって、わかってたからだよ」

「でも」

「絶対に助けに来てくれるって信じてた。だから、来てくれた時は嬉しかった」

「でも、お前に傷を」

「私の心の中をきちんと茅は守ってくれたじゃない。確かに、傷はいっぱいついちゃったけど。そのときだって、ずっと思ってたよ?痛いのは今だけで、絶対に茅が来てくれるから大丈夫だって」


実際、昔は絶望しか感じなかったのに。

だけれど今回は違った。

絶望の中に、希望がきちんとあることを央は知っていた。

それだけで、自分がどんなに救われたか、茅は絶対にわかっていない。

「ねぇ、茅。こんな傷、すぐに治っちゃうよ。でも、心の傷って治りにくいの。でもね、今回は心の傷なんて全くないんだ。むしろ、すがすがしいぐらいなの」

「俺は、すべて守りたかったんだ」

「ありがとう。そう言ってくれるから、私は茅を信じて待てるんだよ」


本当にお人よしだ。

自分は怒られても当然だと思うのに。

そんなことを言われたら、嬉しいと思ってしまうではないか。

茅は央を抱きしめた。

さきほど、3人にも抱きしめられたのに、どうしてか安心感が違う。

やっと、あれから抜け出せたのだという安心感が央にもたらされる。

茅は気付いていないだろう。

央がどれだけ茅に救われているか、なんて。

「ありがとう、茅」

「次は、絶対に守ってやるから」

「うん、よろしくね」

守ってくれると信じている。

彼は有言実行だから、きっと一生守ってくれるだろう。

少し浮上したらしい茅に央は抱きしめられたまま笑った。


ねぇ、ありがとう。

守ってくれてありがとう。

だからね、守ってくれたから次は私の番だよね?




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