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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「へぇ、お姉さん堅気なんだぁ」

間延びした声を出したのは、先ほど来るなと言ったリルだった。

「リル!!」

飛竜がそう叫ぶ。

だが、リルはまったく飛竜のほうは見ずにこちらへと歩いてきた。

トコトコと笑顔を張りつかせたままで、女の前までやってくる。

そして座り込んだ女の前に同じように座り込んだ。

「初めまして。高条 リルです。覚えなくて全く結構ですけど」

むしろ、覚えんなよ。と暗に含みながらリルは笑顔を崩さない。

笑顔は、時に凶器だ。

それをリルはきちんと知っている。

「央ちゃんとは仲良くさせてもらっています」

「な、なんなのこの女!なんなの!」

そう言って、今度はリルのほうにナイフを持ってくる。

飛竜がこちらに来る気配を感じて、リルが制した。

飛竜は思わず止まる。

そして飛竜が止まった瞬間。


バシンっ


実に小気味いい音が聞こえて、女が手で左頬を覆う。

リルが、女をパーで殴ったらしい。

思わず、その場にいた全員がぽかんと口を開けた。

「あ、あんた、何をしたか」

「お姉さんが堅気なら、私も堅気ですから」

「堅気ですって!あんたが!!」

女がヒステリックに叫ぶ。

それをうるさい、ともう一度リルは殴った。

この間、リルは始終笑顔である。

「うん、だって極道の愛人であるあなたはまだ堅気なんでしょう?だったら、6代目付の恋人(仮)である私だってまだ堅気でしょう?」

(仮)を言うな、(仮)を!

どうやら、さきほど飛竜に言われたことを根に持っているらしい。

確かに、あれは初めて飛竜がした告白に近い話だったけれど。

だからと言って、(仮)はないだろう。


「蒼秀会でだって、私の位置はずっと堅気だった。お気に入りって言われても、堅気のお気に入りって言われてたんだから」

笑顔でそういうリルにうすら寒いものを覚える。

リルはどうやらキレたら笑顔でまくしたてるようだ。

今後のために覚えておこうと飛竜は心に誓う。

「お前の女はすさまじいな」

横で茅がぼそっと言ったことは黙殺した。

「あんた、それでも私を殴っていいと思っているの!」

「だって、さっきのあんたの言い方だったら、堅気ならあんたの事を殴ってもいいっていう言い方だったじゃない。だから茅君や飛竜の代わりに私がやってあげたのよ。あ、忘れてた。これ、飛竜の分」

そう言って、リルがもう一度女の顔を叩いた。

結構いい音がしている。

素人がやると、力の下限がわからないので、結構痛い。

それをまともに受けたら、かなり痛いだろう。

「さっきのが私と茅君の分だったからね。言っとくけど、これの倍以上はやってやりたいって思ってるんだから」

「私を殴って、ただで済むと思わないでちょうだい!」

「それはこっちのセリフなんだけど?もし極道が私に手を出したら、きっと飛竜は黙ってないんだから。あんたが私に手を出したら」

にやりと笑みの種類を変えた。

もはや、恐ろしい意外に何も言えない。

「今度はグーで殴ってやるわよ」


勇ましい。

実に勇ましい、が。

昔今の姐が言っていたこと思いだす。

『女同士のけんかのほうが、男同士のけんかよりも何倍も怖くて恐ろしいわよ』

あの時は意味が分からなかったが、今その意味を理解する。

怖い。本気で怖い。

「あんたに、私が殴れると思ってるの?」

「今現在、3発ぐらい殴ってるわよ。お望みなら、勝負してやってもいいんだから」

そう言ってリルは笑顔をやめた。

その顔はものすごく怒っている顔で、目の前の人が憎いと書いてあった。

またバシンと音がする。

どうやら殴ったのは、リルのようだ。

「あんた、また!」

「何度でもやってやるわよ!あんたが堅気だってぬかすなら、何度だって!」

「じゃぁ、今から極道だっていえば」

「その時は、もちろん私が相手してやるわよ!」

自分では極道の相手はできない。

けれど、この極道と関わって強くなったと勘違いしている女なら、いくらだって戦える。

今までそういうことは学んでいないとは言ってきたが、目の前で喧嘩をされたり、乱闘を見せられていれば、戦い方なんて少しぐらいはわかってくる。

それを自分風に応用すれば、いくらだって戦い方はあるのだ。

けれど、そうしたって所詮は男と女の力だ。

男の極道に、彼女は絶対にかなわない。

けれど、女同士ならば。


「私はね、男の人から央ちゃんを助けられると思ってない」

それは、茅の領域だ。

極道から、極道の男なら、茅にかなう人はそういない。

それぐらい、彼は強い男だ。

だから、リルは安心して央を茅に預けておける。

だが、そうでない場合。

特に、女で堅気が相手だった場合、それは自分の役目だろう。

「私だって、央ちゃんを助けたいのよ!助けるためなら努力する。戦い方を覚えた方がいいっていうなら、覚えてやるし、料理を覚えた方がいいっていうなら覚えてやるわよ!」

足手まといなんて、なりたくもない。

央たちの傍にいたいと思うなら、覚えることが増えることぐらい、どうってことはない。

「私は、あんたとは違う!自分ばっかり守って、他の人が傷つくのはどうでもいいっていうあんたとは違う!!」

リルはそう言って立ち上がる。

そして女に立つように命じた。

が、女は立たない。


「私は茅君や飛竜では守れない分の央ちゃんを守る。それが、私が6代目付の恋人である意味なのよ」

6代目付が6代目を守るというのなら、6代目の姐を守るのは6代目付の恋人である自分だから。

女はもう腰が抜けて立ち上がれないらしい。

「もう、そのぐらいにしておいて。早く6代目姐を治療する方が先よ」

いつの間にか香絵が央を助け出していた。

その央の所へと茅が走っていく。

飛竜がリルのほうへと寄ってきた。

だからリルはもう一度笑う。

今度は、わざとこの女に恐怖させる笑い方で。

「今後、央ちゃんに近づくのは許さないからね」

そう言って、彼女は女の首に一発入れて、そして女は倒れた。




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