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現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
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「央が、攫われた?」

その人は、呆然と茅を見た。

質問があるから、来てほしいと言われ、恐る恐る極道の本家にやってきた。

仕事は終わっていたから別にいいのだが、久しぶりに早退をしたかもしれない。

そこに行くと、先に妻が来ていた。

妻は神経が太いのか、お茶をおいしそうに飲んでいる。

そこで、言われた言葉だった。

夫婦ともども、ポカンと一度呆けた。

「あの、女!」

そう言って、央の父親が外に走り出そうとする。

が、それは扉のすぐそばにいた飛竜に止められた。

きっと出ていくとわかっていたから、飛竜はそこにいたのだ。

まぁ、今の茅に近づきたくないという思いからかもしれない。

茅はとてもにこやかだった。

いつも不機嫌顔の茅がにこにこと笑っている。

確かに、初対面は大事だから、央の父親に会うときは印象よくと言った覚えはあるが、今はそんな時ではない。

これは、――――キレている。

長い付き合いの飛竜でも、茅がキレたことは見たことがない。


「どいてくれ!あの女一回……」

「堅気が行ってなんになる」

「でも、俺はあの女を……」

茅の言葉に、央の父親がかみついた。怒りで我を忘れているのだろう。

キレている茅に対して恐れの感情はないらしい。

「茅君どいて、私たちは行かないといけないの!」

央の母親までがそういう。

が、茅はニコニコと冷静だった。

「だから、堅気が行ってなんになる。あっちにはおそらく極道関係の人間がいる」

今、この時に央に手を出してくる。

それは央の話題が上がっている極道関係から派生したと考えて十分だ。

「堅気が行って、極道にやられてみろ。お前ら、死ぬだけじゃすまないぜ?」

茅がそう言って、2人をにらみつける。

その冷たさに、2人はどきりと心臓をこわばらせた。

「けど……」

「それに、あんたらがやられたら、それこそ央の心に一生の傷がつくだろうが」

そんなこと、許されると思ってねぇよな?

茅はそう言って、2人をまた座らせた。

多少冷静になったのか、それとも茅のキレた姿を恐れたのか、2人は静かになった。

「俺があんたらを呼んだのは、他でもない」

「あの女の、居場所」

「その通りだ。あんたが昔住んでいたところ、そこにいると踏んでいる。どこか教えろ」

茅はなおも冷たい目で2人を見る。

その目に凍らされた2人は、すぐに住所を書く。

渡された住所の紙を飛竜に投げた。

つまり、行くからその住所を頭に入れろという事だ。

自分もきちんと連れて行ってもらえることに、飛竜はほっとした。

下手したら、自分一人で行きかねない。

お付として、次期6代目として、それはだめなことだと、彼もきちんとわかるぐらいの理性はあるらしい。

「次期6代目」

「央は必ず守る。だから、お前らはここにいろ」

「でも、次期6代目!」

「これは、俺のせいだ」

茅はそう言って、冷たい目をやめた。

2人が驚いたように茅を見る。

「あいつは、俺の姐だ。姐を守るのは俺の仕事だ。だから、大丈夫だ」

茅は立ち上がる。

その茅に声をかけたのは、央の母親だった。

「央ちゃんを、取り戻していただけますか?」

「必ず」

茅は飛竜を連れて、その部屋を出ていく。

だから、央の母親はそれに託すことにした。

確かに、自分たちが行ったところで何もできないのはわかっていたから。

そんな自分たちを悔しく思っても、それでもこれでよかったと思ったのであった。


「茅君!」

門に差し掛かったころ、リルが走ってきた。

どうやら、出ていくのを見計らっていたらしい。

「リル。お前はここに残れ」

飛竜がそう言っても、リルは首を横に振って嫌がる。

飛竜は少し困った顔をした。

「リル。きちんと連れて帰ってくる。約束するから」

「いや!私だけここにいるなんてそんなのできない!」

自分の目の前で央がさらわれたのに、自分は何もできなかった。

ただ成り行きを、一瞬の成り行きを見ていることしかできなかった。

それが、悔しいのだ。

「リル、頼むから」

「お願い、邪魔にはならないようにするから、連れて行って!」

「駄目だ」

リルの必死の嘆願は、茅にすぐに切られた。

茅は先ほどの冷たい目に戻ってしまっている。

だが、キレているわけではないようだ。

「茅君」

「お前を連れてはいけない。お前は堅気だ」

それに、蒼秀会の次期8代目のお気に入り。

時々、自分に電話してくるぐらいかわいがっているリルにけがをさせたら、おそらくけんかになるだろう。

それに、自分のせいでリルがけがをしたと央を落ち込ませたくない。

「あいつを待っていてやってくれ。必ず、連れて帰る」

「でも」

茅はリルの話を聞かず、そのまま走って行ってしまう。

この時間さえも、きっと彼にはもどかしいのだろう。

それは、リルにだってわかっていた。

「リル」

泣くリルの頭の上に飛竜が手を乗せる。

大きくて暖かいその手を置かれ、リルはまた涙をこぼした。

「待っててくれ」

「どうして?私が堅気だから?」

「若にはそうだろうな」

「若にはって」

「俺はお前を傷つけたくない。若が若姐を守りたいと思うように、俺もお前を守りたいから」

え?とリルが泣き顔のまま顔を上げる。

そこには少し困ったように、でも安心させるように笑う飛竜がいる。

「お願いだ。俺のためにここに残ってくれ。俺は、お前を守りたい」

初めて、自分の本心を見抜いてくれた大切な人。

その人をここで失いたくない。

負けるとは思っていない。自分も茅も十分に強いことは知っている。

だが、彼女は違う。

いくら蒼秀会の次期8代目のお気に入りだろうと、彼女は彼から面白がられた姐修行以外は何も学んでいない。

何が起こるかわからないところに、彼女を連れて行くわけにはいかない。

そして、飛竜の予想では央はきっと今頃虐待を受けている。

その光景を、リルに見せたくなかった。

「ごめんな。俺の勝手な願いだから。けど、頼むよ」

そう言って、飛竜も走って行った。

いい逃げにもほどがある。


「なんなのよ!なんなのよ!みんなして、みんなしてぇ」

リルは乱暴に顔をこする。

そして涙で赤くなったほほをバシンと両手でたたいた。

「言っとくけどね。私は昭ちゃんにはねっかえりって言われてたんだからね!!」

リルはそういうと、門を飛び出す。

そして、茅や飛竜が走っていた方とは反対のほうに走って行った。




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