表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ファンタジア 第1章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア
43/51

43


『ママって呼ばないで、吐き気がするでしょ』

『あぁ、どうしてあんたなんて産んじゃったのかしら』

『ちょっと、あんた本当に邪魔な子ね』

ねぇ、どうすればあなたは私を好きになってくれましたか?

あまりに小さい私は、あなたのご機嫌をいつも伺って生きていた。

機嫌の悪い日は、笑ってほしくて、暴力を振るうとおかしそうに笑う事をしていたから、だから怖かったけれど、あなたが笑ってくれるのならいいと、そう思って殴られた。

機嫌のいい日は、ルンルンと笑っていたから、邪魔をしないように隅っこで小さくなっていた。

けれど、どちらにしろ行き着く先はいっしょで。

ねぇ、あなたにとって私はなんでしたか?

あなたにとって、私はいらない子でしたか?

あなたにとって、私は邪魔でしかない子でしたか?

ねぇ、どうすればあなたは私の事を愛してくれたの?

小さすぎて、勉強で喜んでもらうことも、運動で喜んでくれることもできなかった。

ただ、そこにいては邪魔だと言われて突き飛ばされ、外に放り出され。

黙っているしかなかった。

泣けば、さらにお仕置きされることはわかっていたから。

ねぇ、どうすれば私を見てくれたの?

ねぇ、私は何を期待していたの?

ねぇ、あなたが愛していたのは、誰でしたか?




「あら、起きたの?寝てればいのに」

そう言って、その女は嗤う。

久しぶりに見たその人は、思っていたよりも年を取っていたらしい。

いまだにじゃらじゃらとつけているのは変わってはいないが、どうやら高くはなったようだった。

「ママ」

「ママって呼ばないでくれる?吐き気がするわ」

央は目を伏せた。

ここはどこだろう。

なんだか見たことがある気がするが、どこで見たのだろう。

そんなことを考えていて、そして急に思い出す。

自分はリルの目の前で誘拐された。

だとしたら、リルは――――。

「あの、一緒にいた、女の子は……」

「は?そんな子いた?連れてきたのはあんただけよ」

なら、一応リルは無事だろう。

そう思っておくことにした。

「それにしても、あんたがあの後月会の次期6代目の婚約者になるとはねぇ」

ビクリ。

央の肩が跳ね上がる。

それを一体この人はどこで聞いたのだろう。

央の反応が楽しかったのか、女は嗤いながら言った。

「極道の中では有名だそうよ?聞いた時はビックリした。けど、使えるってそう思ったの」

遊部 央という堅気が後月会6代目の姐になる。

それは、極道にはすぐに伝わった。

小さいも大きいも関係なく、すぐに。

「私、とある極道の頭とお付き合いしているんだけれど、その人が教えてくれたのよ」

愉快そうにそう言ってくる。

この人はこんな声を出す人だっただろうか。

「なんて顔、してるの?」

高いヒールをコツコツと言わせて、その人は央が倒れている方に歩いてくる。

央は、手と足が動かないようになっていて身動きが取れない。

だから、本能で逃げなければと思っても逃げられず、女が目の前まで来るのを見ていなければならなかった。

いやな予感は、きっと当たる。

その、恐怖が女が一歩進むたびに倍になっていく。

そして、女は央をベッドに固定していたものをはずし、央を起き上がらせる。

央の目には恐怖が浮かんでいた。

それに、女は大層満足したらしい。

にやりと怪しく微笑んで、央にこう言った。


「なぁに?やられるのを期待しているの?」

「ち、が……」

「なら、お望みどおりにしてあげるわよ。今、私むしゃくしゃしているからね」

そう言って、一発目が央のほほにヒットする。

そこは、すぐ赤くなり、ジリジリと痛んだ。

「私ね、あんたがいなくなってから、あんたのことを無性に思い出す日もあったのよ?」

バシバシと痛そうな音がする。

女の顔がだんだんと狂気に満ちていく。

「だって、私あんたをこうすることでストレス発散していたんですもの。ストレスがたまったら、あんたを殴ればよかったのにって、そう思っていつでも思い出してたのよ」

クスクスから、アハハハハに笑い声が変わる。

それは、央にとっては恐怖の笑い声。

何も、できなくなる。そんな、笑い声だった。

「ねぇ、あんた今幸せなんですってね。そんなの、許した覚えないんだけどね」

アハハハハハ。

笑いながら、その女は央を恐怖へと突き落す。

恐怖と戦いながら央が思い出すのは、たった一人だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ